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徐倫と母

 徐倫は父のことも嫌いだったが母のことも同じように嫌いだった。徐倫の知る両親はいつも些細なことで喧嘩をしてはそのまま承太郎が仕事で家を開けるという悪循環の上に成っていた。その多くは徐倫にかんすることだったのだが…。
 せめて承太郎が何かアクションを返してさえくれたなら関係はもっとどうにかなっていたかもしれない。でも口喧嘩はいつも母の一方的な責めで終わっていた。承太郎はそれに声を荒げることも怒ることもせずに静かに話を受け止めるだけだ。

 幼いころは母を全能の女神のようにさえ思っていた。近所の悪ガキに苛められては泣いていた徐倫に仲直りの上手い方法を教えてくれたし、勉強だって小学校の先生よりか遥かにずっと解りやすく教えてくれる。理不尽なことに泣いているときにはそっと抱きしめてくれた。
 小さいころの世界を知らない徐倫にとって母がすべてだった。

 父にやり込められてはさめざめと影で泣いている母が、完璧だと思っていた女性が。頼りなく小さくなるのを徐倫は見たくもなかったのに。


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