――――… 「好き……なのか?」 「…………」 「…………」 狭い空間に流れる妙な沈黙。 密室な為に雑音すら無い今、正に静寂しきってしまっている。 そのあまりにも無な空気を先に破ったのは名前だった。 「正直、上手く言えないんだけど――…好きだよ」 「!」 「あ、でも、それはトシも銀ちゃんも総悟も神楽ちゃんもヅラくんも妙ちゃんも……みんなに言えるし」 “好き”の単語に土方が一瞬止めてしまった息。 だがそれは、続いた彼女の言葉に、はぁ、と安堵と共に吐き出した。 「―――…」 “俺らは同レベルか…” 安堵、とは言うものの、“みんな”という単語に土方は再び引っ掛かってしまう。 勿論、彼がそんな小さなことで悶えていることは、向かいに座る名前は気付いていないが。 「でも、トシが訊きたいのはこういうことじゃないんだよね?」 「!あ、あァ…」 「…じゃあ、この答えは今出ないや」 「そうか…」 名前の言う通り、土方が問いたいのは、高杉に“恋愛感情”を抱いているのかどうか。 しかしその答えは、名前自身にもあまり分からない事だった。 二人同時に苦笑いを零し、この話題は煙に巻かれた…… ように思えたのだが―――… 「そういうトシはどうなの?」 「は…?」 「好きな子、いるの?」 「っい、いや…俺は――…」 まさかの質問返し。 不意を付かれた土方は思わず頬を赤らめ、声も裏返ってしまった。 「あれ、その反応…いるんだ!」 「!?」 “何コレ!?新しい拷問法!?” そのまま、にこにこと期待気味に見詰めてくる名前を見、彼の心臓は五月蝿く鳴る一方。 当然、観覧車の中では逃げ場も無く、この状況は俗に言う八方塞である。 何を紡ぎ出せば良いのか土方が狼狽えていると、名前が、す、と身を引いた。 「ごめんごめん、言わなくていいよ。強引に咎めるSなシュミは私ないから」 「苗字……」 申し訳無さそうな笑みを零しながら言った名前の言葉に、土方は複雑な感情を抱く。 この空間には二人きり―――つまり邪魔は居ない。 自らの気持ちにも、この頃ははっきりと自覚がある為、“好きな人”を言おうと思えば言える。 しかし、今の土方には度胸というものが足りないのだ。 観覧車が一周するのもあと少し。 土方はその時間を耐えるように、景色に気を取られている名前を唯唯黙って見詰めることしか出来なかった。 〈8限に続く...〉 2012.03.15 . [章割に戻る] |