―――梅雨の延長季節



「すごい降ってるね…」

「梅雨だからなァ」

「いや、それにしても降りすぎ……。も〜、傘持ってくれば良かった…」

「バカ」

「な!晋助だって持ってないんだからバカでしょ!」

「俺ァお前より成績良いんだ。バカじゃねェ」

「それ意味違う!!」


今、校舎内にて佇む二人は、梅雨にもかかわらず傘を持ってこないという、互いの勇気ある行動を蔑み合っていた。

前を見れば外は大泣きで、走って帰っても濡れる事は避けられないだろう。

名無しは、はぁ、と溜息を吐くと、横に立つ男に視線を移した。


“雨が似合うのよねぇ…この男は”


何時見ても見惚れてしまう彼の顔。
何となく悔しさが込み上げ、その整いすぎている横顔に、小さく舌を出すと、それに気付いた高杉は名無しの方をじろりと見下ろした。


「何舌出してんだ。犬かよテメーは」

「い、犬!?」


クク、と喉の奥を鳴らしながら笑われ、名無しは舌を引っ込めて彼を睨み付ける。


「オーオー噛みつきそうだなァ」

「あのねぇ!!」

「ククッ…。で、どうする?いつまでもここに突っ立ってても仕方あるめェ」

「…そうだね。走るしかないかなぁ……」

「とりあえず俺ん家の方が近ェからそっち行くぞ」

「あ、うん」


何もせず、唯じっと天の涙を眺めていても仕方が無い。二人、意を決して鞄を頭に乗せると、高杉は名無しの手を引き走り出した。




**





「転ぶなよ」

「うん…」


言いながら走る速さを合わせてくれている高杉。
名無しは、そんなさり気ない彼に何時もときめいてしまう。


バシャバシャと走る度に跳ねる水しぶきが二人の靴に入り、靴下や制服を濡らしていく。だが名無しは、前を走る彼の背中と、自らの手に感じる温もりに意識を持ってかれている為、気にならなかった。






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