俺達のご主人様は、優しくて温かい人だ。奥様を亡くされて、ご主人様は忙しくてあまり家にいないが、その子ども達は真っ直ぐに育った。真っ直ぐで、素直で、彼らには幸せになって欲しいと強く思う。

「おはようございます花井さん」
「あ、おはようございます勇人様」

玄関の掃除を終えてリビングへ向かうともう長男である勇人様は起きていらした。勇人様はいつも早起きだ。

「勇人様は早起きですね、いつも」
「弟起こすの、いつも苦労させてすみません」
「とんでもないです」

俺が来た初めの頃は、勇人様も朝が弱くて起こすのに苦労したっけ。でも、少し後に入ってきたアイツに会って、勇人様は変わった。いい意味で。

「おはよ、花井」
「おはよう巣山」
「朝飯もうできっから、阿部と水谷起こしてこいよ。昨日夜担だったからまだ寝てるだろ。泉は今日水やりとエリーの餌係だっけ」
「おい巣山、勇人様の前で言葉遣い」
「あ、失礼致しました」
「いえ!!大丈夫です!!」

ブンブン首を横に振る勇人様に口元を僅かに緩めた巣山は、彼の頭に軽く触れてキッチンへ戻っていった。勇人様の顔が赤く染まる。朝からイチャつくなって。

「…起こしてくるわ」

居たたまれなくなった俺は、昨夜の夜担だった二人を起こしに立ち上がった。ちょうど庭の水やりを終えた泉が戻ってくる。

「おはよ」
「よう。朝飯?」
「おう。でも今リビングに勇人様と巣山が二人きり」
「まじで?なら花井についてこ。起こしに行くんだろ?」
「うん。じゃあ行くか」

嫌なわけでは決してない。勇人様は優しいし気も遣ってくれるいい人だ。何かすると、欠かさず礼を言ってくれる。前回の家では主従関係が明確であったため、俺と泉は抜けてここへ来たのだ。あの選択は間違ってなかったと心から言える。
巣山も料理は上手いし冷静だし真面目だし、だけど冗談も通じる奴だ。

「あいつらは、お互いに鈍感だからな」
「…なあ」
「おい阿部!水谷!!朝だぞ!!」
「…んー」

ノックもせずにドアを開けた泉は、ずかずかと部屋へ入って二人の布団をひっぺがした。
のそのそと動く二人は泉に任せて、あと二人のご主人を起こしに行くとするか。




「いただきます!」

なぜか俺の係になった号令を終え、巣山の作った朝飯に箸をつける。皆一緒にご飯を食べることは、ご主人様に言われていることだ。寂しい思いをさせないで欲しいと、そう言われた。

「あ、巣山さん今日の味付けちょっと違うわね」
「はい、これは勇人様と考えてみました。ちょっと出汁を変えてあります」
「どうかな、アネキ」
「おいしい!!好みの味」
「よかったです」

巣山と勇人様は目配せして微笑み合った。

「勇人坊っちゃんはほんと巣山と仲いーすよね」

キュウリの漬物をボリボリ食べながら阿部は地雷を踏んだ。

「そ、そんなこと…ただ巣山さん、お兄ちゃんみたいで」
「そんな、恐縮です」
「ほら勇人!!照れてないで早く食べなさい!!今日朝練あるんでしょ」
「あっ!忘れてた!!」

照れ隠しも含んであるであろう態度で、勇人様はご飯をかきこんだ。すでに食事を済ませていた巣山が用意してあった弁当を包み始める。

「ごちそうさまでした!!今日も美味しかったです巣山さん」
「お粗末様です。さあ歯みがきしてきてください。弁当はやっておくので」
「お願いします!!」

新婚みたいな二人を横目に、空いた食器を片付け始める。お嬢様も自分の食器を手に「あの二人にやきもきしているのは、私も一緒ですから」と笑った。しっかりしたお姉さんだ。

「行ってきまーす!」
「勇人様、送っていきますかー?間に合わないですよね」

水谷がへらへらと気の利いたことを言ったが、その頭を小さく小突いて巣山がエプロンを脱いだ。

「夕食に使う魚見に一番行くんで乗ってってください」
「わ、ありがとうございます巣山さん」
「はい弁当持って。行って参ります」
「行ってきまーす!水谷さん、また今度乗っけてください」
「いえいえ巣山の車のが高くてカッコイーんで、大丈夫です」

ばたばたと玄関へ向かう勇人様のためにドアを開けて然り気無くエスコートする坊主は、同じ執事の目から見ても格好良い。

「勇人様」
「っ、はい」

玄関へ着くと巣山が跪いて勇人様へ靴を差し出した。恒例になっているため、随分見慣れた。

「お気をつけて行ってらっしゃいませ、勇人様」
「はい、行ってきます!」

エンジンをかける音が聞こえた。きっと車の助手席のドアを開けて勇人様を乗せて閉めてってやってんだろうな。

「花井さん」
「はい?どうしました坊っちゃん」
「巣山さんに、さっさと男らしく伝えろって言ってやって」
「…はい?」

弟坊っちゃんはそう言って洗面所へ向かった。

「…男らしく、ね」

巣山は巣山らしく、世間体とか執事とご主人とか、そういうこと色々考えてるんだろうな。でもまあ、巣山と勇人様をよく見ているからこそ幸せを願ってしまうのは仕方ないことだと思う。あんなにいい人達が気持ちを犠牲にして幸せになれないなんて、おかしい。

「…働くか」

色々考えることもあるけど、とりあえず幸せを祈りつつ仕事をしよう。ピカピカの廊下を見ながら背伸びした。


***
水蓮様よりいただきましたリクエスト「執事巣山と主人栄口くんの両片思いを見守るらーぜ」でした。遅くなって申し訳ありません!
いつもリクエストにご参加くださりありがとうございます。楽しかったです!またどうぞ宜しくお願い致します。


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