誕生日に貰ったネクタイは、大事な日には必ずつけるようにしている。
欲しいものは、と問われてプレゼントなんかいらない、一緒にいてくれるだけでいい。そう答えたのに。高校の先生をしているからか、栄口はイベントとか結構張り切る方だ。「29日で焼き肉安いって安斉さんが言っていたから焼き肉食べに行こう!!」とか言ってくるし(ちなみに安斉さんは栄口が持っているクラスの女の子)。巣山が無頓着なだけかもしれないが、いや、正確に言うと無頓着だったのだけれども。

「誕生日なあ…」

結局相手の誕生日が近づくと、自分のそれより何倍も楽しみで、何倍も色んなことを考えてしまう。
何をしてやれば喜ぶかな。あそこの店調べてみようかな。恋人の笑顔を思い浮かべれば、楽しみが広がっていく。巣山はつい緩んでしまう口元を手で覆った。

「…あー」

手帳に目をやれば誕生日は平日だ。一緒に暮らしているからわざわざ待ち合わせなんてしなくても大丈夫だけど、せっかくの日だし特別なことをしたい。最近は外食をしていないから何処かへ出掛けるのも良いかもしれない。一度家に帰ってきてからまた出るのも時間勿体無い気がする。巣山は様々な考えが交錯する頭を順番に整理していった。

「…よし」

最高の誕生日にしてやれるように、頑張ろう。そう心に決めた。



***



夕飯を食べて、順番で風呂に入った後二人でソファーに座りテレビを眺めてビールを飲んでいたら「栄口」と名前を呼ばれた。

「ん?」
「誕生日、おめでと」
「…ん、え…えー…まじか。今日俺、誕生日なの」

栄口はカレンダーと時計を交互に見て目を瞬かせた。忘れていたのだろうか。最近忙しかったしな。巣山は小さく笑った。

「でさ、ささやかなお祝いしたいから職場から真っ直ぐここ集合で大丈夫?仕事延びそうだったら連絡ください」
「そんなのい」
「俺が一方的にやりたいだけ。受け取ってよ」
「っ」
「逃げようなんて、栄口ばっか俺のこと喜ばせて、ずるい」

自分の誕生日のことを言っているのだろうか。確かに栄口は、巣山の誕生日に「一緒にいてくれるだけでいい」と言われたにも関わらず甘くないケーキに豪華なご馳走、そしてプレゼントをあげた。ずるい、などと言われては栄口も断りきれなくなって。

「…ありがと、巣山」
「ん」

改めて誕生日おめでとう。そう言って巣山は栄口の額に口付けた。



***



「誕生日おめでとう、栄口」
「もう、何回目なの」
「いや、だってこれは何回だって祝わないと」

二人で落ち合い、巣山が予約したレストランへ来た。お互いワイシャツにネクタイ、スラックスという格好だ。もちろん巣山のネクタイは栄口から貰った誕生日プレゼントのもの。二人はグラスを合わせてサラダを口に運んだ。

「…でね、その子がとんでもない訳し方をしてて」
「ははっ、それはすごいな。栄口先生何て返したんだ?」
「古典文法の分かりやすい参考書紹介しておいた」

普段通り他愛ない話をし、フォークとナイフを進めていく。ワインもそれと一緒に進んでいく。

「来年、担任持ち始めたらもっと大変になんだな」
「うん、でもやりがいあるし頑張りたいな」
「お前に向いてるよな、先生」
「巣山こそ、何だかんだ楽しく講義やってるみたいだし、先生も向いてるかもね」
「俺は薬作られれば満足です」
「えー?」

二人で笑い合っていると、電気が消えた。

「っえ!?」
「栄口」
「?」

声と共に、明かりが近づいてくる。

♪ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー

「わ、わっ」
「ハッピーバースデー、ディア栄口」

♪ハッピーバースデートゥーユー

店内が、拍手に包まれる。現れたケーキに栄口は目を丸くしていた。

「消して、栄口」
「う、うんっ、ふーっ!」
「おめでとう、栄口」
「…こんなん、知らない」
「ベタだけど、サプライズです」
「…」
「喜んでいただけただろうか」
「はい、大変嬉しく思っております」
「よかった」
「ありがとう、巣山」
「喜んでもらえて何より」

二人はケーキを食べ、店を後にした。



***



店を後にした二人は、ゆったりとした足取りで帰路についていた。明日もお互い仕事である。最近二人で夜道を歩くことが無かったから、何となく会話は無かった。

「栄口」
「ん?」
「目、瞑って」
「…はい」

カチャッ
巣山は栄口の唇にキスをしながら何かを腕にはめていた。

「んっ」
「栄口」
「え、わっ!!時計」
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「…巣山」

この間栄口の時計が壊れてしまい、最近なかなか見つからないと話していた。それで巣山は時計を贈ることを決めたのだ。

周りに誰もいない夜道。家に帰れば二人きりだ。でも、栄口は今巣山に抱き締めてもらいたかった。

「巣山も、生まれてきてくれてありがとう」

巣山は笑いながら栄口を腕の中に捕まえた。好きだよ、と言えば「俺も好き」と返ってくる。
あの時電車で栄口が貧血にならなかったら、と最近巣山は考えた。偶然が重なり、今がある。尊いものだと感じる。

「来年の誕生日は期待しててね」
「おう。楽しみにしてんな」
「任せて!!」

手を繋いで、二人の家へと向かった。


***
ちび丸様より頂きましたリクエスト「リーマンパロ続きで誕生日ネタ」でした。
リーマンパロがお好きとのことで、本当に嬉しいです!!
ちび丸様、遅くなってしまいまして大変申し訳ありません。リクエストありがとうございました。


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