「すーちゃん!!」
幼稚園の時いつもニコニコ笑っていたゆーちゃん。優しくて、でも芯は強くて。ハーモニカが得意だった。タンバリンとか、綺麗なリズムを鳴らしていたっけ。絵は得意だけどあまりリズム感が無かった俺の隣で、覚えたての歌を楽しそうに歌ってくれた。
ゆーちゃんとはずっと一緒だと思ってた。何も疑ってなかった。それなのに。
「ねえ、おかあさん。クラスにゆーちゃんいなかった」
「あら、そう。離れちゃったのね」
「はなれ」
「うん。ばいばいって。でもクラス違っても一緒に遊べるよ」
「ほんと」
「仲良くできるでしょう」
「うんっ!」
幼かったから、何も分かってなかった。その内新しいクラスで友達も増えて、それっきりだ。忘れていた訳じゃない。ただ、気にかけなくなっていたのだ。自然に俺の中からゆーちゃんは消えていった。
こんなことふと思い出すなんて、きっと。
「おはよう巣山」
「はよ、栄口」
「眠いやー」
あくびを噛み締めるように口をむにゃむにゃさせる彼を見て、胸の辺りが温かくなるのを感じた。
「どうしたの?」
「…いや」
栄口はゆーちゃんに、似ていると思う。アルバム見れば一発なのかもしれないけど、そんな野暮なことする気は起きなかった。分からないなら分からないままで、それでいい。
「栄口」
「んー?」
「昼さ、売店付き合って」
「いーよ、何買うの?」
「飲み物。暑いから無くなりそう」
「おけー」
ほんとに暑いよね、今日。
栄口はシャツの首元をぱたぱたさせている。
昔出逢っていたから、何だ。俺達は今、友達以上の関係で、色々拭いきれないこともあるけど幸せで、毎日が楽しい。
「怖いの、かもな」
「ん?」
「…いや」
あの時一度離れた俺達が、もう一度離れないだなんて確証は得られなくて。胸を張って好きだと言えても、守れるかと問われれば返事はすぐにできなくて。情けないけど、これが現実。
「ガキでごめんな」
「えー?」
頬を手の甲で撫でると、くすぐったそうに微笑んだ。
思い出は、これから作っていけばいいとさえ思う。
「巣山?」
「…大丈夫だよ」
「…変わってない、ね」
「え?」
栄口は困ったように笑った。
「嘘吐く時、いっつもお腹触る」
「えっ」
「昔から、そうだ」
昔から、昔から?
「栄口」
「…久しぶりだね、すーちゃん」
「っ」
「さっき何考えてたの?俺やだよ。またこうして会えたのに…何も無かったことに、だなんて」
壊してしまうのは簡単だ。でも、守るのは難しい。
「あんなに仲良かったのに、10年以上…離れてたから。怖くなった」
「そんなの、あの時と今じゃ気持ちも違うし覚悟とかだって…違うじゃん」
「っ」
今はあの頃よりは大きくなって、分別もついて、でも栄口と一緒にいたくて。
幼かった頃よりわがままなのに、何を気にしているんだ、俺は。小学校も中学校も違う。離れていた10年は元には戻らないけど。
「うん、俺あの頃よりずっとお前のこと好きだ」
「えっいきなり何、巣山」
戻らないけど、この先の10年は紡ぐことができるから。
「…だから、一緒にいてくれなゆーちゃん」
「今更だよ、ばかすーちゃん」
栄口は、あの頃より大人びた顔で笑った。
***
由阿様から頂きましたリクエスト、「巣山誕続編」でした。
離れていた期間を気にして悶々とする巣山とのことで、書かせていただきました。
巣山誕はすごく楽しかったので、また楽しめました!
由阿様、リクエストありがとうございました!
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