正義の味方にはいつも憧れていた。めちゃくちゃ怖い敵に対して怖じ気づくことなく立ち向かうヒーロー。ヒーローのユニフォームを脱げば、格好いいお兄さんが日常を送っている。もちろんデパートに来る彼らもそうだ。周りの皆と一緒に応援して、名前呼んで、そしたら勝ってくれて。小さい時はずっとずっと正義の味方になりたかった。憧れていた。ヒーローって寝ても覚めても格好いいと思っていた。

「じゃあ、この台詞が聞こえたら出てきてね」
「分かりました」
「巣山くんは、この動きを覚えて。ステージの裏に引っ込んだ後…」
「はい」

一通り打ち合わせも済んだ。巣山のお母さんの知人から紹介を受けて、地元のデパートでヒーローショーをやることになった。ちょうど何も予定が無かった俺と巣山、あと阿部の三人だ。ヒーローショーって劇団の方とかがやること多いみたいなんだけど、そんな大きくないデパートだからバイトを雇ったみたい。年が離れた弟もいるってことで、結構長い間ヒーローを観ていたから大好き。

「実際、こんなん見ると夢無くなるよな…」

敵役である阿部が溜め息を吐いた。ちなみに俺と巣山がじゃんけんに勝ってヒーロー役だ。

「いや、でも皆俺らのことヒーローじゃないって疑ってないわけだし」
「そうだよ阿部。ひねくれてんのは相変わらず変わんないなあ」
「うっせ」

阿部は敵役にぴったりだと思ったら笑えてしまった。睨まれてすかさずヒーローの頭を被る。

「阿部くん!!最終調整あるからちょっと来て」

スタッフさんが控え室に来て阿部を連れていった。ヒーロー二人きり。頭を被っているからあまり視界は広くない。隣にいるはずの坊主の名前を呼んだ。

「すやま」
「ん」

声と一緒に目の前が明るくなって、外されたんだって分かった。それと同時にまた暗くなる。

「っ」

近くなった巣山の切れ長の目。びっくりしたのとドキドキでギュッと目を瞑ってしまった。
唇に柔らかい感覚。キスされてるって自覚して、目を開けられない。小さな音を立てて、それは離れていった。

「す、や」
「真っ赤」
「だ、だって…いきなりこんなん…するから」
「ずいぶん照れ屋な正義の味方だな」
「…バカ」

背中に一発軽いパンチを喰らわせた。すると坊主は「うわあああ…何て強いパンチなんだあああ」って言いながら崩れた。

「ふはははは…ヒーローは俺一人で十分だ!!」
「そ、そんな…バカな…!!!」
「えいっ!!」

真っ正面からタックルする。また倒れるかなって思ったけど、巣山の腕にすぽっと入ってしまった。ぎゅっと抱き締められる。

「す、やま」
「ん」
「…」

名前を呼ぶと余計にぎゅってされて。今は何を言っても離してもらえないんだろうなと感じる。離して欲しい訳じゃ、ないけど。

「本番でーす」
「やっべ、行こう」
「っうん」

体が離れたと思ったら次は手を引っ張られて。「ヒーローがイチャイチャすんなよ」って阿部に呆れた顔で言われたけど、巣山が楽しそうだったから良しとする。



***



「ふははははは、悪いがコイツは人質に貰っていこう」

滞りなくショーは進み、台本通り俺が阿部に捕まる。子供達からは「頑張れー!!!」「早く逃げて、ブルー!!」「レッド、早く助けて!!!頑張れー」って頼もしい声援が聞こえてくる。やばい、クセになりそう。

「そこまでだ!!リクツオトコ!!」
「レッド!」
「くそ、お前は手下達が…!?」
「悪いが全て倒させてもらった」
「何!?しかしあいつらは戦闘力がお前の三倍近くあるはずだから統計的に負けるわけが」
「そいつを救いたいって気持ちが、力をくれたんだ!!」

前に録音した声が、傍のスピーカーから流れてくる。巣山の声は、かっこよかった。

「「ニシウラーゼバズーカ!!」」
「うわああああ…」

くるくる回りながら阿部はステージ裏へと引っ込んだ。最後に巣山と並んで決めポーズ。

「君たちのおかげで勝てたよ!!ありがとう!!」
「これからも応援宜しくな!!」

そして巣山に差し出された手を握ってステージ裏へ走った。ヒーローにも憧れたけど、やっぱり今は巣山が一番かっこよくて。それだけで充分だ。
最前列にいた女の子に「ラブラブ」と言われたのは内緒。


***
マナ様よりいただきましたリクエスト、巣栄でヒーローショーでした。
ヒーローショーというネタが本当に楽しかったです。阿部はヒーロー向けじゃないかな…笑
マナ様、リクエストありがとうございました。
今後も宜しくお願い致します。


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