「…えっと」

家に帰ると栄口が小さくなっていた。というか、だいぶ幼くなっていた。4歳くらいなのかな。それくらいまで幼くなっていた。

「栄口…」

キョトンと俺を見上げてくる幼児の栄口。

「俺さ、栄口がどんな姿になっても…」
「あ、巣山おかえりー」
「ずっと好きだか……って、え!?」
「何言ってるの」

ふわりと笑いながら俺の隣に洗濯物を持って現れたのは大きい栄口。っていうか今まで通りの普通の栄口。

「、え」
「ああ、この子は…はい自己紹介!」
「栄口瑛人です」
「えい、と?」
「そうそう。俺のアネキの息子。会ったこと無かったっけ」
「話には聞いてたけど…聞いてたけど、な?」

同じ大学に進学した俺達は、別々の学部ではキャンパスが一緒だったために二人暮らしをしていた。そんな生活を毎日送り、幸せな時間を過ごしていた。
今日は俺だけ六限があって一緒に帰られなかった。栄口がいるはずの家に帰り、そして笑顔で出迎えてもらうはずだったのに。なのにそこにいたのは栄口によく似た男の子。ありえないと思っても錯覚に陥るのは仕方ないだろ。

「アネキ夫婦が明日用事でいなくてさ。預かってきた」
「…そうなんだ」
「ごめんね今更」
「いや、驚いただけ。栄口の甥ってことは…俺とも家族になる予定だろ」
「、巣山ってば」

こうして三人の生活は始まった。



***



俺達は三人で川の字になって寝た。すやすや眠る穏やかな可愛い顔は栄口にそっくりだった。俺はその二人の寝顔を見ながら眠りについた。
今日の朝飯担当は俺だったから、早く起きて朝飯を作った。食パンとハムエッグと野菜炒め。瑛人も喜んでくれた。

「そうだ瑛人」
「どうしたのゆう君」

瑛人は栄口をゆう君と呼ぶ。なんか、いつまでも色々なことに嫉妬してしまう自分がいて情けない。しかも子どもに。本当に栄口に溺れていると思う。

「公園でも行こうか」

今日は土曜日で、ちょうど学校も休み。ゆっくりするには最適な晴れだった。

「うーん、気持ち良いね」

栄口は瑛人の手を握って歩き始める。俺が少し手持無沙汰でいると、瑛人が俺を見上げながら言った。

「しょー君はこっち」

そして手を差し出す。栄口にそっくりってこともあってかやっぱり弱いな俺。苦笑しながらその手を取った。

「しょー君とか」
「あはは、いいじゃん気に入られて」
「俺そんなキャラじゃないだろ」
「しょーちゃんよりは合ってると思うけど」

優しく笑う栄口。そしてその間にいる瑛人。何か、子どもがいたらこんな感じなのかなとか思った。言えないけど。



***



「…あれ」

どうも、水谷です。栄口と巣山と違う大学だけど近いです。天気がよかったので散歩に来ました。そして今、幻を見ています。

「…これはスクープだ」

高校時代からラブラブだった巣山と栄口は、今でも健在で。それでいてなんと、真ん中に二人の子どもがいた。二人の子どもがいた!!

二人はあんなに幸せそうなのに男同士で色々と問題があった。だけど、ついに幸せになる時…というか運命に、神に、認められたんだ!!
俺は早速携帯を取り出して一斉送信でメールをつづった。



***



「あれ、メールだ」

栄口がポケットの携帯に反応する。それを見ていたら自分の携帯も振動を始めた。

「俺もだ」
「…野球部の皆…」
「…おめでとう?って…どういうことだよ」
「阿部も“学生の本業は勉強だろうが”ってどういうこと?」

答えの出ないメールの数々に俺達は困惑した。そしてそれに答えをくれたのは…

「水谷だ」
「うん“後ろ向いて”って…」

俺と栄口は同時に振り向く。そこには見知った男の顔があった。今来たメールの送り主である。

「水谷」
「やー、本当におめでとう。皆からメールきた?」
「お前の仕業か」
「え、だって…その子二人の子どもでしょ?」
「「え」」
「栄口に似てて可愛いね」
「瑛人です。…しょー君、この人だあれ」

瑛人が水谷のことを訪ねてくる。俺は瑛人を抱き上げて言った。

「怪しいおじさんだから近寄るな」
「あやしいおじさん」
「え、怪しいおじさんって誰?俺のこと!?」
「皆に何したんだ」
「た、ただ二人に子どもができたよって報告しただけじゃん!!なんでそんな非難されなきゃいけないの」

俺と栄口は溜息を吐いた。

「…もう、話すことはないな」
「帰ろう瑛人」
「うんっ」

また三人手を繋いで公園を去る。水谷が後ろで何か言っていたけれど気にすまい。

「瑛人、今日何食べる?」
「えっとね、ハンバーグ!!」
「じゃあ買い物してから帰るか」
「そうだね」

俺達は微笑み合った。
ああどうかこの笑顔が、今後も絶えませんように。

翌日、瑛人は両親の元へ帰って行った。泣きじゃくられて大変だったけど、それはそれで嬉しかったりする。また来てくれるって約束もした。

後日野球部で集まった時に「え、信じたけど」とか「なんかお前らならそんな奇跡ありそうだった」とか、あの阿部さえもすんなり受け入れていたということを聞いて驚愕した。驚きと色々な心配によって花井が入院した事実を知ったのは、もっと後の話だったけれども。



END



***
安藤様からリクエスト「栄口甥と巣栄の数日間」でした。とっても可愛いくて詳しい設定のおかげで楽しく書くことができました!!本当に感謝です。
この二人は、なんかすごく家族が関わってくるなーと思います。そういう温かい雰囲気が似合う感じ。

安藤様!
本当にリクエストを書くのが遅れてしまってすみません。ぎりぎりになってしまいました…
でもすごく楽しく書かせていただきました。やっぱり安藤様の一組ワールド大好きです!!来年はオフ会しましょうね^^
本当にありがとうございました。
そして書き直し希望などございましたら、本当にお気軽にお申し付けくださいね。
リクエストありがとうございました!



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