「さあ一年生、こっち来てくれるかな」

花井がたどたどしい雰囲気を醸し出してまだあどけなさが残る少年達を誘導する。
それを見て皆は「何かっこつけてんだよー」とか「恥ずかしがってんじゃねえぞー」とか言って笑っている。監督もいるけど「こういう柔らかい雰囲気だと一年生も和むのよね」と言って微笑んだ。普通なら怒られてるよな。わかんないけど。

「はい!」

いい返事をする一年生達。まだ春休みだけど、こんな時期から結構人が集まってきてくれた。皆俺達の試合に何かしら感じてくれたらしい。少し恥ずかしいけど嬉しいな。

ふと整備をしながら横を見ると、巣山と目が合った。

「、どうした」
「かわいいね一年生」
「うん、だな」

ほんのり口元を緩めながら、巣山は整備を続ける。嬉しいんだろうな、後輩。

「巣山、後輩にモテそうだよね」
「んなことねえぞ?」
「だって、こんな男前だもん」

にこっと微笑めば、そっぽ向かれた。照れてるのかな?俺はトンボをぎゅっと握り直して整備を進めた。その後ストレッチをする時に花井からの指示。

「皆、一年生とペア組んでやってくれー」
「え」

隣にいた巣山が声を上げる。皆素直に返事をしていたから、何か違和感。

「巣山、後輩苦手なの?」
「や、俺は苦手じゃないんだけど」
「?」
「…なんか、俺第一印象あんましよく思われないんだよな」
「え」

巣山がちょっとへこんだように言ったから、少しの沈黙の後に吹き出しちゃった。ごめん巣山。

「笑うなよなー」
「だって、なんか真面目だから」
「お前は後輩…ってか皆に好かれるからいいだろ」
「そんなことないと思うけどなー」

巣山の第一印象を思い出してみる。そういえばプロテインで取り乱したり、ちょっと意地悪だったりだなんて思えなかったかも。最初は少し怖かった…かな?

「あ、あの」
「、」

声を聞いて、巣山の顔が揺れた。

「お相手してもらえませんか」
「えっと」
「あ、駄目…ですか」

その少年はおどおどしながら少し退いた。俺は腕を引っ張って止める。

「ごめんごめん、そうじゃないんだ。ポジションは?」

笑顔で問いかければ、少し安心したような表情。俺も少し嬉しくなった。

「希望は…ショートです」
「お、巣山じゃん」

巣山の背中を押して前へ出す。

「よろしく」

普段の穏やかな表情ではなく、強張った表情でそう発した巣山に一年生は緊張を更に強めたようだった。

「巣山―、そんな威嚇しないの」
「威嚇、なんか」
「してるよ。怖がってるじゃん一年生。ね?」
「…人見知りなんだよ」

ぼそりと呟いた巣山に少し口元を緩めながら「そんな巣山も好きだよ」って伝えたら「からかうなよ」って肩をそっと小突かれた。

「おいおいお前らいちゃついてねーで早くペア組めよ。あの三橋もペア組んだんだぞ。まあ花井が手配したんだけど」
「お、阿部先輩。やる気満々じゃん」
「そんなんじゃねーけどな。まず早くやろうぜー」
「阿部、キャッチ入ってきて浮かれてんだよー」
「余計なこと言うなクソレフト」

結局浮かれてるのは皆一緒なんだなー。ずっと10人同級生しかいなかったしな。新鮮なのかもね。
そこにシニアが一緒だった後輩が走ってきた。

「勇人さん!!」
「お、西浦来るって言ってたもんな」
「はい。またよろしくお願いします」
「一緒頑張ろうな。キャッチボールする?」
「お願いします!」

巣山と目が合って、そのまま近づいてきた。

「名前呼び」
「え、だってシニア一緒だったし」
「なあ、ここでは栄口さんって呼ぶようにしてくれ」
「え、分かりました」

焼きもち、あんまり妬かれることないから嬉しい。それを隠せないで表情に出してると巣山にぽんっと頭に手を乗せられて「小さい男でごめんな」って言われた。ごめん、また惚れ直すから。

「勇…じゃなくて、栄口さん」
「、はい」
「もしかして、噂の巣山さんですか」
「噂?」
「しょーさんが言ってました。栄口さんには男前なパートナーがいるって」
「っしょーちゃん」

しょーちゃんってば、そんなこと吹き込んでたのか。本当に気が抜けない。

「まあ、そうかもね」

さりげなくはぐらかして、キャッチボールするために後輩と距離を取るよう走る。だけどその走り際に後輩の隣にいた泉の「部活してれば嫌でもあの二人のラブラブは分かるから」とかって言葉が聞こえた。皆までそうやって!

「ほら、投げるよー!!」

たどたどしい一年生の声を聞きながら、俺はボールを投げた。
これからどんな日々が待っているんだろう。



END



***
あき様から頂きましたリクエスト「一年生が入って張り切るらーぜ」でした。とても楽しかったです。焼きもち巣山が書きたかっただけなんてそんなまさか←

あき様。
この度はリクエスト本当にありがとうございました。すごく楽しんで書かせていただくことができました!
なかなかストーリーが固まらなくて遅くなってしまい申し訳ございません。
書き直し希望などございましたらお気軽にお願いいたします。
ありがとうございました!



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