「…おはよ、栄口」

おはようございます。一年一組の工藤です。バスケ部です。君島とはよく遊ぶくらい仲が良いです。そして結構勘も良いらしく、本日も冴えています。

「お、はよ…工藤」

まあこいつの場合は…誰でもすぐに気付くかな。

「栄口、何かあった?」
「、いや」
「聞いてよ工藤!!」
「げ、水谷」
「げって何よげって。1組の人って結構俺に冷たいよねー」
「そんなことはないんじゃないか」
「何だよその棒読みー」

俺が栄口に尋ねていると、うるさいのが来た。7組なのになんでここにいるんだよ。そう考えていたら「栄口に辞書借りに来た」だそうだ。ちゃんと持って来いよ。栄口に迷惑だろうが。
1組には結構野球部が来る。栄口が副主将だし、巣山も皆に頼られているからかな。だから意外と知らないうちに野球部とは仲良くなっていた。

「で、何があったんだよ」「それがさ」
「…」

俺が聞いたのは水谷ではなく栄口だったのだが、栄口は口を割らないように思えたから水谷の言葉を待った。てか本人の承諾なしに言っていいの?これ。

「栄口がお弁当作ってきたんだって、巣山に」
「え」

こりゃあめでたい。われらが嫁の栄口が最愛の巣山にお弁当か。今までの経験からしては、初めてだ。他の奴らに話したらお赤飯でも準備しなきゃってなっかな。

「でも考えてみれば巣山は自分の弁当を持ってきているし、朝コンビニでパンも買ってきたんだって。だから弁当出しにくいって話よ」

べらべら話す水谷を横目に、俺は俯く栄口をそっと覗きこんだ。

「…巣山なら、食べるんじゃねーの?」
「だって自信ないのに…心配だよ」
「栄口の弁当なら絶対食べるだろ」
「無理させたら嫌だなーって、そんなこと思ったら出せなくなっちゃった」

栄口は切なそうに笑った。俺からすれば、栄口が作った弁当を巣山が無理して食べるなんて信じられないけどな。あいつなら喜んで完食するだろうけど。うん、もう目に見えるようだ。

「で、どうすればいいわけ」
「え」
「栄口はどうしたい?俺何でもすんよ」
「工藤…」
「あ、授業始まる…栄口辞書貸して!工藤、栄口の背中押してやってよ」
「…おう」

偉そうに俺の肩を叩いて水谷は帰って行った。俺と栄口は隣同士の席だから座って話を続ける。

「パンなら明日でも、食えんじゃん。部活後だって食べられるし」
「そうだけど」
「じゃあ俺が巣山からパン貰ってくればいいか?したら渡しやすくなる?」
「工藤にそんなこと…させられない」
「だって…じゃあどうすりゃ良いんだよ」

栄口と巣山はいつも仲が良くて。そんな光景を見て普段は和んでいる。だから栄口が切なそうにもどかしそうにしているのは見ていられない。多分、他の奴らだってそうだと思う。

「…頑張って、渡してみようかな」
「話は聞いたぞ栄口」

くるりと振り返って小声で話しかけてきたのは君島。相変わらず整った顔してんな。いつも色々馬鹿やってっけどサッカー部の期待のルーキーなんだからギャップだよな。意外すぎる。

「俺が巣山からパン奪ってくるよ」
「え」
「ちょうどパン食べたかったし。そうすりゃ栄口だって渡しやすくなんだろ?任せろ」

俺の株を上げようとしていたのに、君島にいいとこどりされそう。

「君島…あり、がと」

…いいとこどり、された。

「工藤も、色々ありがとうね?」

ふわりと笑う栄口に、俺は小さく微笑んだ。


***


「巣山―」
「?」

授業が終わり、さっそく君島は巣山の元へと向かった。

「腹減ったんだけど、何か持ってたりしねえ?」
「え」
「何かあれば買うからさー」

迫真の演技だ。俺はつい吹き出しそうになったけど我慢する。
巣山は優しいからきっと君島にパンを渡すだろう。だって、あの巣山だし。

「え、持ってないけど」
「…!?」
「す、巣山君、さっきパン持ってたよね?」

委員長が助け舟を出した。てかあれ、なんで委員長知ってんだよ?
そんな顔をしたら隣にいた青木に「巣山以外皆知ってんぞ」って言われた。一組の連携ってやばい。すごい。

「ああ、腹減ってさっき食っちまった」

さらりと白い歯を出して微笑む坊主。

「…じゃあ、昼休みは弁当だけじゃ足りない!?」
「どうなんだ巣山!!」
「お願いだから足りないって言って巣山くん!!」

今まで関係なかった奴らまで会話に入ってきて巣山を圧倒する。少し驚きながらも、冷静に巣山は返事を発した。

「、え…ああ、うん。足りない…けど」

よっしゃああああ!!

声にならない叫びが、教室にこだましたように感じた。よかった。お祝いだ。

「さあ栄口!!」
「栄口くんっ」
「え」

栄口の名前に反応した巣山の前に、どんっとつきだす。

「…あ、あのね巣山」
「ど、した?」
「…今日巣山に…弁当作ってきたんだ」
「!」
「良かったら…食べてもらえる…かな」

クラスメイトが見守る中で、栄口は言い切りました!!
巣山はふっと目を優しく細めて栄口の手から弁当を受けとる。

「…今からやっぱ返してって言ってもナシだからな」
「っ、ありがと」
「お礼言うのは俺だろ。ほんとありがとな」
「…ううん」
「あー早く昼休みなんねーかな」

巣山は口元を緩めながらそう言った。その言葉に栄口は嬉しそうに笑う。
その笑顔が出た瞬間、一組にはわっと拍手が巻き起こった。

「え、俺そんな歓迎されてんのか?」

次の授業の先生が教室に入った瞬間拍手が巻き起こったから、先生はキョトンとしていた。

昼休みまであと一時間。
今日も一組は平和です。



END



***
ミウラ様より頂きましたリクエスト「野球部に振り回される一組」でした。
いつも君島にスポット当てているんで今回は工藤で。君島よりは冷静な設定です。バスケ部だったら良いな(笑)

ミウラ様!
この度は素敵なリクエスト本当にありがとうございました!!
捏造一組大好きなんて嬉しすぎます。私も書いていて楽しいのでまだまだ増えると思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!!
書き直し希望などございましたらお気軽にお申し付けくださいね。
ありがとうございました!!


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