「えと…本日はよろしくお願いいたします」

隣で深々と頭を下げて挨拶する恋人の姿に、不意に口元が緩んだ。

「何言ってるの栄口くん!そんなに固くならないでよ。そんな間柄じゃないでしょう?今日と明日はゆっくりしていってね」
「っあ、ありがとうございます」

また頭をゆっくりと下げる。緊張しているんだろうな。顔も強張っているし。普段と同じようにすればいいのにな、なんてそんなこと思ってしまうけど。だけど俺が同じ状況だったらやっぱり緊張するんだろうなって思う。

母はそんな栄口を見て微笑み、そして言った。

「ああ、素直でいいわね栄口くんは。尚治もこれくらい可愛げあったらねえ」
「俺に求めること自体間違ってるだろ」
「そうよね、あんたがこんな可愛げあってもまったく可愛げないもんね」

母がそう言ってわざとらしくため息を吐いた。その直後、隣から息の漏れる音。

「、」

横目で恋人を見れば、ふんわりと笑う顔が見えた。

「やっと笑った」

母はそう言ってにんまりとする。栄口も恥ずかしそうに笑った。その光景を見て俺は、やっぱり母は一枚上手だと思った。



***



そもそも今の状況は、多分すごいことなんだと思う。

「栄口くん、連れてきなさい」

これからずっと栄口といたい。その旨を親に伝えると、否定されると思っていたのにそれと正反対の答えが返ってきた。母は「いいじゃない。栄口くんいい子だし」と笑った。父も「じゃあ兄に早く孫を見せてくれるよう頑張ってもらわないとな」と朗らかに微笑んだ。

「…連れてきなさいって、なんで」
「熱愛発表から栄口くん連れてきていないじゃない。照れてるの?」
「いや、そんな頻繁に連れてくるのもどうかと。むしろ何その熱愛発表って」
「男らしくないなー。いいから連れてきなさい。部活抜きで会って話してみたいもの」
「何を、話すんだよ」
「それはその時による」

兄弟も認めてくれ、会ってみたいと言われるようになった。

「…それは、家族に紹介って、ことですか」

それを伝えれば、顔を真っ赤にしてゆっくりと言葉を紡いだ栄口。

「そうなんのか」
「うわああ緊張する」
「え、大丈夫じゃん?」
「だって、今までとは関係が違うわけでしょ!俺と巣山のこと知ってるわけでしょ!!」
「うん」
「恥ずかしいよ、ほんと照れるじゃん!」

顔を手で覆った栄口に近づき、その手をゆっくり下へ下げる。顔を赤くさせた可愛い恋人。

「大丈夫。大丈夫だよ栄口」
「、」
「将来の、家族に、会ってください」

そうまっすぐ見つめて伝えれば、「そういうの無自覚で言う巣山、ずるいよ」と言って困ったように笑った。



***



「あ、これお土産です」
「あらあらそんなのいいのに!」
「ケーキ、なんですがお口に合うか」
「手作りじゃない!ほんと器用ね栄口くん」

俺は栄口がこの日のために料理を少し頑張ってくれていたことを知っていた。俺はそのままで十分だって言ったけど自分が許さないって。こういう努力かなところもまた…好きなんだけど。

「じゃあリビングへ入って?ケーキとお茶出すから」
「や、やらせてください!!」
「だって栄口くんお客様でしょ?あ、じゃあ尚治やりなさい」
「わかった」
「すや」
「任せて。俺も将来のためにこういうの慣れとかないとな」
「!」

栄口は小さな声で「お願いします、旦那さん」と言って笑った。不意に言われたその言葉がどうしようもなく恥ずかしく感じて、熱が集まる顔を隠すようにして早足でキッチンへと向かった。

「あー、なんかアニキかっこつけてんじゃん」
「ほんとだよな。尚治」
「そんなんじゃねえよ」

兄弟もリビングに集い、栄口を歓迎する。結構似ている俺と兄弟を見比べて、少し驚いたような顔を見せた後で「いい兄弟ですね」と優しく笑った。

「風呂ってどうすんの?尚治と栄口くん一緒入んの?」
「ああ、そうね。布団は二人一緒で良いと思ってたけど」
「ちょっと待て。一人ひとり入ればいいだろ」

お茶を入れて持ってきたら、結構大きなところまで話が進んでいた。栄口は顔を真っ赤にして俯いている。

「栄口困らせんなよな」
「だよなあ、大事な大事な栄口くんだもんなあ」
「アニキほんとかっこつけ。栄口くんの前でだけだけど」
「お前な、年上をくん付けなんて馴れ馴れしいぞ。さん付けろ、さん」
「だって栄口くんがいいて言ったからさ」
「うん、さん付けなんて恥ずかしいからって言ってそうしてもらったんだ」

栄口らしいな、なんて思っていたら背中をぽんっと叩かれた。

「とりあえず座ってお茶よお茶!」
「…分かってるよ」

それから話してご飯を食べた。想像以上に栄口は巣山家に浸透していた。

「なんか、ほんといい子。栄口くん」
「え」
「こうやって、ずっと話してると地が出たりするものだけど…栄口くんは栄口くんのままね」
「、」
「息子を…よろしくね」
「、はい!」

いつもとは違う、真剣な親と…そして栄口。くすぐったい嬉しさに、机の下でそっと、栄口の手を握った。



***



結局風呂は別々に入ったけど、布団は客間に二枚くっついて敷かれていた。それをわざわざ離せばよく分からない雰囲気になってしまう気がして、そのままの状態で寝ることにした。

「ごめんな、訳分かんない集団で」
「ううん、楽しかったよ」「…そっか?」
「…おふくろ生きてたら、こんな感じで俺んちにも呼べたのになとか、思った」

じんわりと響く言葉に、俺は栄口をぎゅっと抱きしめた。

「…おふくろさんいなくてもさ、呼んでよ」
「来てくれる?でもアネキの飯うまいよ」
「楽しみだな」
「うんっ」

いつかこういう風に、毎日を過ごす日が来るんだろうか。

遠すぎない未来を感じながら、目を閉じた。



END



***
一組大好き!様よりリクエストの、「家族公認お嫁さん栄口、巣山家お泊まり」でした。
まとまり無くてすみません。穏やかな感じかな〜と思って書かせて頂きました。

一組大好き!様
この度はリクエストありがとうございました。
遅くなってしまい申し訳ありません。そしてまとまり無くてごめんなさい。
ふわふわな栄口くんに、皆癒されるんでしょうね。
本当にありがとうございました!
書き直し希望など、お気軽にお申し付けくださいませ。


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