少し暗めの話。
栄口君が少し傷ついています。
苦手な方はお気をつけください。





あの日、栄口が普通じゃないことに、俺は気づいていた。でも、気付かないふりをしていた。
そうしないと今よりも栄口が傷ついてしまいそうで。
いや、そんなきれい事じゃない。自分が壊れてしまいそうで。
だから俺は、気付かないふりをしていた。

「栄口は、今日も休みか?」

今日で三日目。栄口は学校に姿を見せずにいた。もちろん部活にも。
メールをすれば風邪だとの返信。
先生は反応の無い俺達を見渡して、出席簿に記入した。

「栄口どうしたんだろ」
「風邪だってさ」
「見舞い行くか?てか巣山行った?」
「、今日行く」

歯切れの悪い返事をしてしまったから、花井は一瞬考えるように間を置いて、そして言った。

「じゃあ様子見てきてくれよ。大勢で行っても迷惑だろうし」
「ああ」

何があったかは知らない。でも確実に何かあった。栄口に、何か。
知りたくないと思う自分がいたけれど、それよりも…

栄口に、会いたくなった。
何を恐れている?この気持ちで、あいつへの想いは揺るがないって改めて感じたはずなのに。
でも、そこには…知りたくない事実が、ありそうで。
でもそれごと包み込めばいい。抱き締めてやればいい。
それが、今の俺にできること。



***



「、巣山」

チャイムが鳴ったと思えば、階段を上がる音がした。弟にしては重みのある音だったけど気にしなかった。
ノックに返事をすれば、入ってきたのは巣山。
今一番会いたくなくて…それでいて一番会いたい人だった。

「風邪って言ってたから見舞いきた。今日ミーティングだけだったし」
「風邪…移るからいいよ。ありがと」

俺はわざとらしく咳をして布団を頭まで上げた。

「栄口」

巣山の声が、近くに聞こえる。

「顔、見たくないならそのままでいい。でも」
「、」
「…風邪なんかじゃ、ないんだろ?」

やっぱり巣山、気づいてたんだ。あの日いつもより笑顔が固かったから。

「…」
「言いたくないなら言わなくていい。でも、これだけ聞いてくれ」

布団越しに、大好きな声が聞こえる。

「…怖かったんだ」
「?」
「ほんとのこと知ったら自分が傷つきそうで。自分を守って知らないふりしてた。けど」

じわじわ、心を温められる。

「栄口が傷ついてるのに…これ以上黙ってるなんてできなかった。本当にごめんな」

温かさが、頬を伝った。

「悪いのは…黙ってた…俺だよ」

布団をゆっくり下げていく。

「あの日の前日に、さ…俺帰ってる時に、路地裏に連れてかれ、て…知らない男、二人に…」
「、怪我は!?」
「怪我は、ないけど……っ!」

布団から引っ張られて思い切り抱き締められた。

「…っや、巣山!!俺、もう巣山に優しくされる資格なんか」
「ごめん」
「!?」
「守ってやれなくて、ごめんな。本当に…本当にこんな俺で、ごめんな」

腕が、いつも力強く抱き締めてくれる腕が、震えていた。

「好きだよ」

くれた言葉が、心を刺激する。込み上げてきた涙を、もう止めることはできなかった。



***



「明日から、迎えに来るから一緒行こう」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。大丈夫」

コツン、と窓から音がした。

カーテンを開ければ夕焼け色の日が入り込んでくる。栄口は眩しそうに目を細めた。

「あ、お前ら」

窓の外にいたのは野球部だった。

「栄口!!元気出せよ!」

田島がぶんぶん手を振っている。

「グラウンドで待ってるからな!」
「力になれっことあったらなんでも言えよー」
「いつもの栄口の笑顔で、また癒してくれよ!」

皆も口々に叫ぶ。

隣の栄口を見れば、泣きそうな顔で笑っていた。

「だから」
「え?」
「なんで皆こう泣かせるかなー」

栄口は目を擦った。
さっきまでの不安に溢れている目ではなかった。

「皆!!明日は行くねー!!」

栄口の元気な声。皆も笑顔で返事をした。

明日は一緒に学校へ行く。だんだん傷を癒して…これからは守ってやりたい。絶対に。
そう思いながら、栄口の手を握った。



END



***
匿名様よりリクエスト「傷ついた栄口君を立ち直らせる巣山とらーぜ」でした。
巣山くん、傷ついた栄口君をやんわり守るんだろうな。なんて。
しんみり系久しぶりだったので新鮮でした。

*匿名様
今回はリクエスト頂いたのに私情を挟んで添えられずに申し訳ありませんでした。
このような形にさせて頂きましたが気に入らないようでしたら書き直し希望くださいね!
こんな管理人ですみません。
しかし巣栄好きとしてこれからもよろしくお願い致します!
この度はリクエストありがとうございました!!


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