「留学?」
「うん。スペインまでちょっくら行ってくるわ」
「…そう、なんだ」

夏休みに入り、君島が短期でスペインへ行くことになった。サッカーうまいもんな。プロからも注目されてるみたいだし。

「泣くなよ栄口〜」
「泣いてなんかないよっ!ちょっと、びっくりはした、けど」

野球部はまだ引退していない。最後の夏だし、一番長い夏にしたいと思っている。
でも早い人は5月とかに引退して、俺達は部活やってて。受験生なのに、って。君島は夢に突っ走ってて。なぜか急に不安になった。

「栄口ー」
「巣山」
「聞いたか、君島いつも急なんだもんな。もっと早く言ってくれればよかったのに」
「まあ旅行みたいなもんだし。すぐ帰ってくんよ」

君島の顔は、すごく生き生きしていて楽しそうだった。


***


「心配?」
「え?」

君島と別れ、部活へと向かう。今日も暑くなりそうだ。太陽が眩しい。

「君島…のこと?」
「…ん、いや。色々」

歯切れの悪い返事に、この坊主には全部お見通しなんだろうなって思った。

「まあなるようになるだろ」
「巣山がそんな楽観的なの珍しい」
「そうか?」
「うん」

あはは、と笑っていたら、巣山が真面目な顔で見つめてきた。

「すや」
「お前の、移ったのかも」
「え?」
「こんな時期だし、悩むのもいいけど、楽しそうにしてるお前が一番好き」
「…そんなん言われたら悩めないじゃん」
「笑顔が、一番好き」

頬をぎゅっとつままれて、なんか泣きそうになった。
不安は消えないけど、色々心配だけど。だけど今はとりあえず、夏だけ見据えて前に進もう。終わってから、楽しかったって言えたら、後悔なんてしないだろうし。

「巣山」
「ん」
「ありがとね」

嬉しそうに笑った巣山の顔は、君島みたいにピカピカしていた。


そんな僕らの夏


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