誕生日プレゼント01

「もうすぐクリスマスの時期か…。」

皆が仕事をする生徒会室にポツリと放たれた言葉。
一瞬の沈黙の後、それぞれの役員達が反応を見せた。

「あ、かいちょーがまた何か企んだ顔してる〜。」
「こら会計!今の会長に近づくんじゃありません!!」
「会計ちゃん孕まされちゃうよぉ?」

「お前らも大概失礼な奴だな。」

呆れた表情を見せる彼…この学園に君臨する王であり彼等役員を従える生徒会長、堂前魁は部下たちの反応に不満を覚え眉を顰めた。
しかし次には一転して艶やかな笑みを浮かべる。

「俺はただチェリーが食いたいと思っただけだぜ?」
「会長ちゃんが言う"チェリー"って童貞ちゃんの事でしょぉ?」

ふわふわした性格と可愛らしい容姿から生徒達の間で天使と呼ばれている書記がにっこりと笑いながら口にした言葉は耳を疑う内容だったが、生憎それに突っ込みを入れる様な者は生徒会室に存在しない。
堂前はその言葉にただ肩を竦めるだけだった。

「…堂前、毎年この時期になると一年生を漁るのはやめてください、風紀から苦情がきてます。」
「あ?仕方ねぇだろ。二、三年の目ぼしい奴等は全員喰っちまったんだからよ。」

この男が在学中の三年間…いや、中等部の頃を含めれば六年間。一体どれだけの生徒が犠牲になったのか。
腐れ縁によって付き合いが長い副会長は頭を痛めた。

しかし彼は知らない。
カリスマ性があり外面も内面も雄々しい生徒会長を組み敷けるという征服感によって、彼に童貞を捧げた生徒達は皆一様に堂前の下僕と成り下がっている事を。

堂前は思う。
雄としての習性を上手く利用してやればこれ以上ない優秀な手駒が作れる、と。
自分の身体に溺れ自分に心酔する奴等は馬鹿で可愛い。定期的に"ご褒美"を与えてやれば彼等は躍起になって自ら堂前の下僕へと志願する。

堂前自身も狗達が自分に服従を誓うのならば可愛がってやろうという気持ちだ。
だがしかし、目の前のお堅い男にはどうやら理解出来ないらしい。

「…任期もあと少しで終わるんですから、もう少し落ち着きを持ってください。」

――――わかってない、だからこそ今を愉しむものだろう?

苦々しく忠告をしてくる友人を見つめ、堂前は釣り上げた唇を一舐めした。




街中がイルミネーションで彩られ、クリスマスソングが流れ始める頃。
しかし全寮制のこの学園ではそれらも関係無く、一応は冬休みというものに入っている。
大抵の生徒はまだ学園に残って休みを満喫しているのだが、一応時期が時期だからか街に降りる者も少なく無い。


―――「今年もまた堂前会長がやらかした」と風紀から延々と愚痴を聞かされた副会長―――森園麗一は、聖夜前日だと言うのに重い気持ちで帰寮していた。
腐れ縁だからかそれとも生徒会の副会長という立場だからか、堂前が何かをやらかすと必ず本人ではなく森園に連絡がくる。
自分は彼の保護者ではないのだから勘弁してほしいものだ、と溜め息を一つ溢した。

…そもそも、彼のこの貞操観念の低さは本当にどうにかならないのか。
そこで思い出すのは仲間である他の役員達の言葉。

以前これと同じ事を彼等に零した時、返ってきた言葉は意外なものだった。

『ん〜、会長ちゃんは貞操観念が低い、っていうよりも、使えるものは使ってる、って感じかなぁ?』

『え?』
『ほら、かいちょーの家って大手企業グループのトップじゃん?実はね、かいちょーが手出してる生徒って殆どがその傘下とか系列の家の子なんだよー。』
『まぁ自分の趣味もあるんだと思うけどねぇ。ちなみに僕の家は会長ちゃんの家と云わば敵対している関係だから声がかかった事はないよ。』
『えへへ…、俺、実はかいちょーに喰われちゃった。』
『あー、会計ちゃんの家は会長ちゃんの家と今いい感じだもんねぇ…。』
『うん、この取引が上手くいったら今後の繋がりが出来るってさー。』


それは、一般家庭の出の自分ではわからない世界。
この学園に通う生徒の多くがいずれ何かしら大きなものを背負う事になる。

恐らく自分では想像も出来ないような世界が彼等の眼前には広がっているのだろう。
此処を卒業してしまえば、そもそも出会う事ももうないかも知れない。彼等は住む世界が違うのだ。


「…使えるものは使ってる、ね……。」

どこか寂しさを覚えながら、森園は呟いた。





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(C)siwasu 2012.03.21


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