Act.06 俺は、少しでもいいからお前があの感情を持ち合わせていることを。 自惚れと呼ばれてもいいから、願いたい。 ■ 優しすぎる男 (side 和真) 俺は清々しい気持ちに胸を踊らせていた。今はゆっくりと心を支配して沈む空虚感に胸をくゆらせている。冷たい水が俺の肌を刺すように流れていく。 けれど刺すようなこの温度が、とても心地よかった。少しでもこれを幸せだと思う自分を馬鹿にしてやりたい。 そしてそのまま、痛みの感覚も麻痺しただろう頃に大雅(たいが)が追い付いたのか息切れしながら入ってきた。あまり見ないその姿に俺は笑いそうになるのを堪える。 「本当に大丈夫なのか?」 「んー。もうあんま痛くねーし」 大雅は俺の手を掴むと火傷の箇所を見た。たかが缶コーヒーなので、騒ぐほどの重傷でもなく赤く腫れているだけ。 けれど大雅はそれを辛そうな目で見やると「氷を貰ってくる」と出ていった。俺は何も言わなかった。 本当は、正直広貴(こうき)の行動は予想よりも自然な流れだと思った。自然な流れ過ぎて泣きたくなった。けれどこれはモノを取られた妬みなのか…。 「嫉妬…だったら、嬉しいんだけどな」 自嘲するように悲観して、冷やすことをやめた。生徒会室に戻れば大雅以外のメンバーがいて、内事情を知らない風太(ふうた)達は俺の腕に慌てたが、俺が至って冷静だったのですぐに落ち着く。 俺はそのままソファーで休憩している広貴の横に座った。若干驚かれたがすぐに無表情になる。 なんでこんな奴好きになったんだって思ったが後の祭り。 こうなったらもうとことんやるしかない。そう思って広貴の方を向いた。 「広貴」 「…なに?」 「俺も広貴に、」 「…」 「話あんだよ」 「……」 それだけ言うと、俺は席を立ち風太達の輪の方へ向かった。後ろで広貴が仮眠室の方へ向かう気配を感じる。あいつは意味を分かってくれただろうか。 俺達の様子が気になったのか、風太は首を傾げながら「何の話してたのー?」と聞いてきたので「今日一緒に映画見るんだよ」とだけ答えれば「本当和真(かずま)って映画好きだよねー」とすぐに納得してくれた。 その時ちょうど大雅が氷を持って現れた。走り回って探していたのかまた息切れしている。けれど俺の姿を見つけるや否や安心したように一息つくと、すぐに優しい表情に戻った。 「どこに行ったのかと思った」 そう言って俺の腕に氷を乗せる大雅。 冷たすぎるそれが責めているように痛みを増長し、俺は眉をしかめた。 「…なぁ、夜広貴と映画見るんだけど大雅も見るか?」 「…あ、…あー、あぁ、用事もないし大丈夫だ」 一瞬表情が固まるが、すぐに笑顔に戻り平常心を保つ大雅の演技に俺は心中感嘆する。 「えー大雅も行くなら俺も行こっかなー」 「お前はすぐ寝るから嫌だ」 「ぶぅ。和真のケチ!」 そんな何気ない日常の会話の中、誰にも見られない位置で俺の手を握る大雅。 俺は、この優しすぎる男に懺悔した。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |