08


「さっきまでのだらしねぇ顔でいてもいいんだぞ、副会長サマ」
「まさか、僕を慕ってくれる子達を幻滅させるわけにはいかないよ。とはいえ想いには絶対応えられないけど」

 笑いながら目を細める土屋は、そう言うと見えてきた校門からこちらに気付いた生徒達に向かってゆっくりと手を振った。
 黄色い悲鳴が聞こえ出すのはお互い顔がいいからだってのは分かるが、その声が若干太いのは未だに慣れない。
 校門で俺達にうっとりとした表情を向けるのは男、男、たまに女、男、やっぱり男。
 去年から共学になったとはいえ、元格式高い男子校であった聖南ヶ丘学園は、伝統的な独特の文化のせいかとにかくホモが多い。
 中性的な雰囲気の男子が新しく入ってきた女子と睨み合ってる姿も、去年から見るようになった新しい光景だ。
 更に言うと元々は全寮制でもあったらしい。俺が中等部から入学してきた頃に希望制へと変わり、去年からは少ないが女子も入学してくるようになった。やはり今の時代閉鎖的な全寮制の男子校はどこか古臭いものがあるのだろう。
 とはいえ今まで先輩達が築いてきた男ばかりの箱庭で生まれる背徳的な関係はすぐに崩れることはなく、今でもこうして見目のいい男や権力のある役職持ちは男女関係なく持て囃されている。
 勿論男から言い寄られることも少なくない。
 実際俺の親衛隊も九割が男だからな。そもそも女自体学園の一割程度しかいないので当たり前なのだが。

「志藤様ぁ!」
「今日も素敵ですぅ」

 しなを作る男子生徒に「ちょっと邪魔ぁ」と押し合っているのは化粧の濃い女子生徒だ。そんな奴らに仕方なく手を上げて反応を返してやれば、また黄色い悲鳴が上がる。

「人気者は大変だねぇ」
「興味ない」

 素っ気ない態度を返しつつ、俺は生徒の視線を浴びながら土屋を連れて校舎に入り最上階にある豪勢な扉を開く。
 イタリアンクラシックで上品だがシンプルに整えられた生徒会室は、今日も気品ある空気を纏っている。先に入室した土屋が席につき全員が揃ったことを確認すると、俺は奥で窓からの光を浴びているプレジデントデスクに腰を下ろした。

「おはよう、遅くなってすまない。早速だがミーティングを始めるぞ」

 机上のラップトップを起動させながら言えば、生徒会書紀が素早く書類を役員に配布していく。
 クソガキ共に朝から受けた仕打ちは一旦忘れよう。頭を切り替えて書類の業務内容を確認しながら、俺は画面の付いたディスプレイにあるファイルを開くと内容を照らし合わせた。それを横目で見ながら昨日の予算会議の報告を始める生徒会会計の声に耳を傾ける。
 志藤隼人。聖南ヶ丘学園高等部二年。学園内で最も権力と責任の強い生徒会会長を務めている。
 だから例え朝からすし詰め状態の満員電車で弟達に痴漢され疲れていたとしても、今から学生としては勿論、生徒会長しての忙しい一日が始まるのだ。


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(C)siwasu 2012.03.21


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