◆◇◆ 「もう無理だ、限界だ」 「疲れた顔してるねえ」 土屋に書類を渡すなり、俺は倒れるように生徒会室の机に突っ伏した。 笑いながら優しく「休憩がてら珈琲でも淹れてあげるよ」と手招きするお前が天使に見える。 動くのが面倒でキャスター付きの椅子に座ったまま応接スペースまで移動すると、相川のため息が聞こえてきた。 「だらしないですよ、会長ともあろう方が」 書記の相川は、日本人男子の平均身長にモデルのような体型をしているボーイッシュな学園初の女子生徒会役員だ。 前下がりのボブに愛嬌のある猫目が中性的なイメージを際立たせていて、男女問わず人気がある。 普通なら女子が生徒会役員なんて反発が出そうなものなのに「相川様なら」と俺の親衛隊までも頷かせるほどストイックで、イケメンという言葉がよく似合う女だった。 俺からすれば小言の多い姑のようなものだが。 「誰も見てねえからいいんだよ」 そう言えば「私は見てますけど」と皮肉が返ってくる。 舌打ちする俺に珈琲を差し出しながら土屋が苦笑した。 「もしかして疲れの原因は悠人くんと幸人くん?」 「そうだよ、サイアクだ」 土屋は俺と弟達のことを知っている。と、いうより何となく察しているようだったので、二人に性的な目で見られていることをそれとなく相談したことがある。 土屋の「代われるものなら代わってあげたい」という言葉には引いたが、俺のケツが狙われている話はしてないので、おそらく双子がウケの方だと思っているのだろう。 「僕からすれば妬ましい悩みだよ」 砂糖だけ入れた俺好みの珈琲をすすりながら、羨ましそうな視線を向けてくる土屋から目を逸らす。 こいつに悪戯されるクソガキ共の姿を想像すると何故か胃がムカムカしてきた。 「思春期になれば女の子にも興味が向くでしょ」 「その前に俺が何されるか分かったもんじゃねえよ」 先日の出来事を思い出して俺はため息を零す。 このままじゃ飽きる前に俺の貞操が危ない。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |