02


「魔法があるのにこういうところ、古典的だよな」
「魔力は無尽蔵ではない。続けて使えば疲労もたまる。火が使えるならそちらの方が楽だ」

 とはいえ、焚火には点火のための術式を施してあるし、正確には魔法でなく魔術なのだが。何度言っても理解しようとしないので、最近は諦めて好きに呼ばせている。
 人外の精霊や一部の魔物は、術を使わずとも自然の魔力を行使できる「魔法」を使えるが、人間は体内の魔力を術に落とし込んで行使する「魔術」しか使えない。しかも、万物を構成する四元素の属性しか扱えないのだ。
 異界から転移してくる魔王は、代々闇の魔力を自由に扱えると伝えられている。それに対抗するには、光の魔力が必要不可欠だ。
 そして、光の魔力はエルフが守る「勇者の剣」にこめられている。それを自由に扱えるのは勇者しかいない。だから魔王は勇者にしか倒せない。
 その責任の重さを何回も説明してはいるのだが、どうやら本人には世界を救う自覚がないようで、馬耳東風といった状態だ。

 シスは地図を広げて現在地を確認する。
 ダライア地方との境にあるエルフの洞窟は、馬を利用すれば四十日ほどで辿り着けるはずだ。

「光の剣は、このままダライア地方に向かって手前にあるエルフの洞窟にある。洞窟には手強い魔物も多く潜んでいるから、もう少しレベルを上げながら移動しつつ、後半は馬を使おう……って何をしているのだ」

 地図を指しながら今後の動きを説明していたシスは、顔をあげて思わず半眼になった。マオが話を聞いていないどころか、泥団子のようなものをこねていたからだ。

「クラブタートルの外殻とビートルバニーの門歯を合成したら失敗した」

 そう言ってマオは泥団子を見せてくる。
 どうやら、先日覚えたての合成スキルを試しているらしい。しかし、まだスキルレベルが低いので、高ランクアイテム同士の合成は失敗するようだ。
 原型を留めていない高ランクアイテムに、シスは眉をしかめた。

「どちらも貴重な素材だ。無駄遣いするんじゃない」
「へいへい」

 マオはそう言いながら泥団子を放り投げる。
 そして、べしゃりと地面に落ちて潰れたそれをしばらく眺めていたが、何かを思いついたように首を傾けてシスを見つめた。

「そういや、お前もアイテムなんだよな。合成できるんじゃ」
「ゾッとすることを言うな!」

 シスは自分を抱きしめながらマオと距離を取る。合成に失敗した先ほどの泥団子と同じ未来を想像して、思わず身震いした。
 確かに、現在アイテムとして登録されているシスは、合成対象となっているだろう。可能か不可能かで言えば可能ではあるが、倫理観の問題だ。
 そして、この勇者に倫理観が存在しているのかと問われれば甚だ怪しい。と、いうか名案だと言いたげな表情を向けている時点で確定だろう。

「シスはCランクだし、Eランクの潤滑剤ならスキルレベル的に失敗はしねえと思うんだけど」
「そういう問題ではない! そもそも、そんな実用性の無いものを合成してどうする!」
「フェラの時いちいち出さなくても口からこう、にゅるっと」
「ひいっ」

 したくなかった想像をしてしまい、シスは思わず悲鳴をこぼした。
 この男は、その口で飲食もしていることを忘れているのだろうか。何を飲み食べても潤滑剤の味がするなど、餓死した方がマシである。
 震えるシスの姿が気に入ったのか、マオは下卑た笑みを見せる。
 とても勇者とは思えない表情だ。

「それに、濡れるなら下も使えるじゃねえか」

 そう言って視線をシスの下腹部に向ける。

「し、下……?」

 シスはつられるように自分の下半身を見て、数秒考えたあと、彼の言わんとしていることを理解して、綺麗な顔を焚火よりも赤く染めあげた。

「きっ、貴様の性欲を解消させる手段は、こっ、こここ、口淫だけの話だろう……!」

 つまりマオは、男性と性行為する際に利用する排泄器官を使わせろ、と言っているのだ。
 シスは話が違うと首を振った。
 同性との性行為を嫌っているわけではない。この世界では、男の伴侶や恋人も多く、下の兄も女性と婚姻を結んでいるが、同性の愛人を数人囲っている。
 だが、同性との恋愛が常識的だからこそ、受け入れる側の貞操観念はとても固かった。特に、初めての行為は想いが結ばれた相手と、生涯を誓った相手と、と考えている男性は多い。
 シスは、リードすべき挿入側の経験はあっても、あくまで性教育のためであり、元々は貞淑な部類の男である。フェラマスターとなった今でも、その概念は変わっていなかった。
 思わず尻を隠すように手を置くシスに、マオは半眼を向ける。

「でもヨォ。最近お前、フェラも業務的っつーか機械みてえだし、全然可愛げなくてつまんねえんだもん」
「だがそれで達しているではないか」

 そう言って睨みつけるシスに、マオは肩をすくめる。


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(C)siwasu 2012.03.21


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