2旅人は祭りを見物し、お面を託される | ナノ
2旅人は祭りを見物し、お面を託される
※残虐表現(暴力、倫理観の欠如した行動)あり
ポケモンのイメージを崩したくない方は閲覧注意

 村に閉じ込められたベニータとアララルは、暇を持て余して公民館にある村の歴史書を読んでいた。
 歴史書にはベニータが耳にした昔話の他にも、村人たちの様子やともっこ様を讃える絵が随所に描かれており、アララルが首を傾げながらベニータに解説を頼む。
「ベニータ、宴会でともっこ様が食べている料理って何なんだろう」
「うーん……果物?なんか目玉にも見えてグロテスクだなあ」
「ベニータ、この絵は村人の一生なんだけど、70歳になった後はどうして描かれてないんだろう?」
「昔はそこまでが寿命だったんじゃない?ほら昔の人って寿命が短かったから、老人になったらそれだけで凄いというか……」
 左肩の鈍い痛みと共に不安感が湧き上がるベニータ。体調が悪いと言い残して公民館の和室で眠ろうとすると、同室の観光客のアローラキュウコンが尋ねてくる。
「あの、同じ部屋のタルップルとアップリューのカップル、見なかった、デスか?」
 彼女はナルと言い、アローラからやって来た旅人だった。初日にアオラニという同種の魔法使いとの痴情のもつれをオイオイ泣きながらベニータに語った(彼女の落ち込み様に三角関係が云々だの、そんな話を私にしないでほしい、とベニータは到底言えなかった)以外は明るくフレンドリーな女性で、彼女は若いカップルを昨日の夜から見ていないと話した。
「昨日神木に相合傘描いた、言ってマシタ。それでまた外出て、それっきり、戻らないデス」
「うーん、知らないですねぇ……」
 畳に寝転がりながらベニータはカップルの愚行をアホだなと思いながら眠りにつく。そして目覚めるまでケルト風のお祭りで自分が女王として祭り上げられる夢を見るのだった。


 ベニータが目覚めた時には夜だった。アララルが興奮気味にベニータに駆け寄ると今日から始まるオモテ祭りを見に行こう、と鼻息を荒くする。
「お祭り?何か嫌な予感がするけど……」
「大丈夫、ベニータに何かあれば俺がそいつを殴ってやるから!」
 確かにアララルがいれば安心感が抜群なのは言うまでもない。これまでの旅でも何度彼に助けられた事か。少しだけなら見ても良いかもしれない、とベニータは体を起こし、アララルと共に緑の甚兵衛に着替えてキタカミセンターへと向かう。
 オモテ祭りは和やかで明るい雰囲気で進んだ。警戒していたベニータも焼きそばやババヘラアイスに舌鼓を打ち、アララルの舌がブルーアローラのかき氷で真っ青になっている事を笑い飛ばす程に普段の調子を取り戻していた。
「そう言えば昔の鬼退治の再現もやるってさ、見てみる?」
「鬼退治ね、気になるかも」
 祭りで昔の伝説を再演するパフォーマンスはどこにでもある話だ。アララルからその話を聞いたベニータは、そんなどこにでもある話を思い浮かべて再現が行われる広場へと向かった。そしてアララルもまた、ただの祭りの一環だと思っていたのである。
 始まった鬼退治は最初からおかしかった。鬼役にされたアップリューはあの行方不明になっていたカップルの男なのだが、まるで危うい薬をキメたかのように目は虚で朦朧としている。そしてともっこ様役には老人二人とカップルの片割れの女が選ばれており、やはり同じような表情で息を荒くしていた。
 この祭りはおかしい、ベニータが直感した瞬間その場は鮮血と怒号と歓声に覆われた。鬼もともっこ様も目をかっ開き狂乱しながら互いを殺し合う様は、少なくともまともな倫理観を持つベニータにとっては衝撃的すぎる光景だった。思わず人混みから離れ、境内の隅で嘔吐するとその背中をさする者がいた。
「あなたはあの時の……ありがとう、向こうには絶対行っちゃダメだよ」
 振り向くとあの時ベニータの大道芸を見物していた、緑の仮面をつけた童がそこにいた。童はベニータをじっと見つめ、何かを言いたそうにする素振りを見せて仮面を外すと、それをベニータの胸に押し付けて煙のように消えた。そして童と入れ替わりにアララルがやって来る。
「とんでもない祭りだよ!とにかく……とんでもない……あの亡骸は全部ともっこプラザに運ばれて、ともっこ様の糧になるんだって」
 つまり人身御供の儀式だったのである。改めて恐ろしい村に来た事を後悔するベニータとアララル。だが脱出しようにも唯一の道が封鎖されては逃げる術もない。
 これから祭りは神輿に亡骸を担いでともっこプラザへと向かうそうだが、ベニータとアララルはそのまま公民館に戻る事にした。
「ともっこ様はポケモンを喰らうんだ、その生贄として70歳になった老人や村人が選ばれる……」
「そして哀れな観光客もね」
「でも倫理観が整ってる世界なのに、何でこの村では野蛮な事が行われているの?」
「私も知りたいよアララル。でも今日はもう、早く帰って寝たい」
 ポケモンがポケモンを食らう時代ははるか昔。今は世の中に食べ物が溢れかえり、各々の人権も保障されている。現代において必要ないどころか禁忌の一つと定義づけられる事に対してこれが因習か、とベニータは悟った。
 一足早く公民館に戻った二人は風呂に入り、布団を整え始めた。アララルが先に布団に入ってうとうとし出す脇でベニータは布団の上に胡座をかき、もらった緑の仮面をまじまじと見つめた。
 そういえばこの仮面は何なのだろう。はめ込まれた石がきらきらと輝いており、マジックアイテムにも見える。しかしもっと不思議なのはこれを託した童だ。まるで煙のように消えたあの姿、これは「みがわり」を使った思念体じゃないだろうか?力の強いポケモンの場合「みがわり」を遠くへ飛ばし自身の手足のように扱えるというのだが、そんな強いポケモンがこの里にいるとすれば……鬼?
 謎だった。ではその鬼がなぜただの観光客に仮面をよこしたのか。ひっくり返しても仮面は何も教えてくれない。それじゃ顔にはめてみたら?
 ただの興味本位だった。それに、仮面に呼ばれているような気がしたから。とにかく、些細な理由でベニータはその緑の仮面を顔にはめてみた。すると頭に声が響いたのである。
『この声が聞こえるなら、ワタシの頼みを聞いてほしい』

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本編中でポケモンの悪事にしてはやり過ぎなラインでは?となった話が展開された事と、ポケモン世界では普通にポケモン同士が捕食関係にあるからいいやという理由で今回の設定が生まれました。
それでも倫理的にどうなんだ?と突っ込まれたら作品は消す予定です。

ネームドモブのナルについて。彼女は長命種の魔法使いで、かつてマヒナの父親と一悶着あったアロキュウです。色々あって傷心して世界中を旅している。
今となっては修羅場の諸々をナル以外知る者がいないので、この話は蛇足と言ってしまえば蛇足である。
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