1旅人と竜、東方の地へ赴く |
ウォルターとドンとの旅を終え、二人と別れてからもベニータとアララルはパルデアを旅して回っていた。 「ベニータ、どこへ行く?」「足の赴くまま!」 こうして気ままな旅を続けていた二人だが、ある日どちらからともなくこんな事を言い出す。 「もう少し、遠くへ行ってみない?」 行き先は考えていない。ただ無心で公共交通機関を乗り継ぎ、道に沿って東へ東へ。こうして二人はパルデアとは全く文化の異なる小さな村へと辿り着いていた。 キタカミの里。周囲を深い山々に囲まれ、のどかで美しい田園風景の広がるこの村にアララルは目を輝かせ、ベニータは穏やかな雰囲気に緊張感を緩める。 「良い場所じゃない」「そうだね!」 この村でのしばしの滞在を決めた二人。公民館を宿泊施設とし、荷物を置いたベニータはアララルと別れ早速村を散策するが、突如左肩の古傷に鋭い痛みを感じる。 「もしかして、厄介な場所に来た……?」 古傷が疼く時は大体嫌な予感がする。謎の違和感に不審がりつつ、ベニータは周囲を見回すがおかしな部分は何もない。商店のおばちゃんも優しいし、子供たちも無邪気に走り回っている。 ともっこプラザまで歩くと村の老人が子供たちに昔話を聞かせている場面を見かけ、ベニータも後ろからその話に耳を傾ける。 『この里の山には恐ろしい鬼がおってな、山に入ってきた村の者を食べてしまっていたんじゃ。そんなある日怒り狂った鬼が山から降りてきてのう、村の者は皆恐れたが、この村を作った三人の英雄が命を賭して鬼を追い払い、平和が訪れたのじゃ』 小さな集落ではよくある話だなと思いつつ、ふと公園の奥へと向かうとそこには英雄たち(ともっこと呼ばれている)を祀った祠があり、ベニータはしげしげと奥の像を眺める。何の変哲もない祠だ。その傍に置かれた石碑も老人の昔話が書かれてあるだけだった。 『ともっこ様は新鮮な血肉の恵みで蘇り、再び里を守ってくれると伝えられています』 「随分と物騒な事が書かれているなあ」 孤児院で昔教えられた祈りの言葉を思い出しながらベニータは帰路に着いた。血はワインで肉はパン。生臭いよりはこっちの方がずっといい。 こうしてその日は無事に終わり、翌日ベニータは役場から許可をとって大道芸を村の子供たちに披露する事を決める。 黒い帽子に黒い仮面を装着したいつもの大道芸スタイルでヨーヨーやアクロバットを華麗に見せるベニータ。村の子供達は村じゃ滅多に見られないパフォーマンスに大いにはしゃぎ、終盤に差し掛かって歓声や熱気も最高潮となる。中でも緑の仮面を被った不思議な雰囲気をまとう童は彼女に釘付けだった。 だがその時、子供たちの後ろから石が飛んできてベニータの仮面に当たった。 「鬼の使いめ!この村から出ていけ!」 何が起きたか分からないベニータ。たまたま居合わせたアララルが石を投げた村人に威嚇してその場は何とか収まったのだが、その夜のベニータは終始不機嫌だった。 「誰が鬼の使いだって!?私はただの観光客だっての!」 「まあまあ、公民館の管理人さんも村にはたまにそういう信心深い人がいるって言ってたじゃん。鬼と同じ緑色で仮面被ったポケモンだからって理由で襲って良い理由にはならないけどさ」 「緑色で仮面を被った子なら私以外にもいたけど……あの子はどうなったんだろう。まあいいや、どうやら私はこの村にいちゃいけない邪魔者みたいだし、明日には帰るよ」 「うん……」 だが二人は結局キタカミの里からは抜け出せなかった。その夜の大雨で土砂災害が起こり、村と外をつなぐ唯一の道が土砂崩れで封鎖されたのだった。その上町から救援が来るのは一ヶ月後。 「よりによってオモテ祭りの時期になんて……」 悔しがる村人たちの横で、ベニータは絶望的な目で立ち尽くしていた。 「次に何かあったら俺がベニータを守る」 「もう大道芸は村でやらないけどね」 だがこれは、これから起こる騒動の序章に過ぎないのだった……。 - - - - - - - - - - キタカミの里の話は映画くらいの尺のイメージです。 だから手早く終わる。 ←back |