「そんなの詐欺だ!」 | ナノ
「そんなの詐欺だ!」


「おかしい」
 むすっとしながら対戦相手を睨みつける。周りからはクールだ、とか大人っぽいと言われがちな僕だが、師匠といる時は否が応でも十五歳の少年になってしまう。
「互角ぐらいにはなると思ってたのに、だってシノノメさんだってそうだって言ったじゃん」
「ふふっ、大体そうデスね」
 先ほどまで本気の腕相撲をしたとは思えない飄々とした顔を大理石のように白く、汗一つない顔に浮かべるのは、僕のバトルの師匠であるシノノメさん。父親が吸血鬼である彼女はダンピールとしての力を持ち、種族としての強さに上乗せされる形でその強さを発揮できる。つまり文字通り目にも留まらぬ速さで駆け、怪物を思わさる一撃を相手に与える事ができるということだ。
 派手に捻られて痛む右腕を庇うと次はつんと彼女から目を逸らす。今負けたのはフィールドがシノノメさんの自室という彼女の居城だったから、という理由でないのは明らかだ。相手が強すぎた?僕の力不足?その両方だろう。今回は上乗せされたシノノメさんのダンピールの力を消して挑むというハンデ付きだった。それでこの様なのだから情けない。
 僕には肌に触れたものの魔法や怪異を打ち消す力がある、力というより体質、と言ったほうが正しいかもしれない。魔法や怪異が溢れるこの国において、この体質は毒にも薬にもなっているが、当然怪異を打ち消すのだからシノノメさんのダンピールという奇怪な力だって無効化できる。今回の腕相撲はその体質を利用し、手袋を外して素肌でシノノメさんと触れ合う事でなし得たハンデだった。これなら勝つか引き分けくらいには持ち込めると思っていたし、シノノメさんもこれは負けるかもしれない、という素ぶりを見せていた。
 手袋越しじゃない、純粋な手でシノノメさんに触るなんて修行の一環でなかったらドキドキして彼女の顔をまともに見られなかっただろう、だが今は違う理由でその顔を見たくない。
「シノノメさん、互角になるなんてハナから思ってなかったんじゃない?」
 正直に言ってよ、と目をつり上げる。床に胡座をかき、目だけでシノノメさんを追う。赤い瞳を閉じたシノノメさんは椅子に座り、顔を僕に向ける。
「ウォルターを甘く見てはいない、私はただ五分五分になるだろうと言っただけデス」
 なるだろう?疑問形を使うなんて卑怯じゃないか。でも確かに対戦前にウォーミングアップで腕を振る僕に、シノノメさんは「どんな内容であれ、悔いのない勝負を」と言っていた。僕を軽んじて見ていないのは彼女を特別な相手として見ていなかったとしても嬉しかった。でも、それでもやっぱり悔しい。だってハンデ付きでも本気を出して倒しに行ったのだから。
「もう一戦、やりマス?」そんな僕にシノノメさんは笑顔で手を差し出す。
「結構、別なことで勝負しよう」
 その手を振り払いたい気持ちを抑え、代わりに彼女の手を取らず両腕を組む。このままじゃ終われない、例えこれまでどんな勝負で挑んでも負け続けていようが、次は勝つかもしれない。負けっぱなしは嫌だ。とは言え次は何で勝負する?なるべく腕を使わない何かが良いが頭を悩ませても思い浮かばない。
「……一旦休憩しまショウ」
「そうだね」
 シノノメさんはちょっとした僕の変化にすぐ気付く。これで終われると思うなよ、と考えていることもお見通しだったら、休憩後の勝負内容も一緒に考えてくれるだろう。まずは紅茶とスコーンで空腹と渇きを癒すのが先決だ、力を溜めて次の勝負に備えよう。
 シノノメさんが使用人に紅茶を持ってくるよう言いつけている間に僕は膨らませた頬を萎ませ、部屋の隅に置かれたテーブル席にどっかり座った。次はどんな手で僕を倒しにかかるのか、どんな勝負であっても絶対打ち負かしてぎゃふんと言わせてやる。

- - - - - - - - - -
←back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -