天上に神はいるか | ナノ
天上に神はいるか


 リナルドは教会を嫌う。荘厳でいて、それでいて心洗われる場所を嫌う奴は違う宗教の信仰者か無神論者くらいだと思うが、リナルドのそれは少し違う嫌がり方をしていた。
 確かにリナルドは信仰や芸術というものを理解できる奴じゃないが、それじゃ教会に火を放てるかと言われたら倫理に反することは出来ない、と返せるだけの道徳は持ち合わせている。ただ彼は常人とは外れた存在なので常識を当てはめて推測しても無意味なのである。
「相変わらずだな」
 連れ立って小さない教会を横切った時、リナルドは露骨に建物から目を逸らした。まるで小さな子供がグロテスクな絵を視界に入れないようにするがごとく。
「俺は目に見えるものしか信じない。この手のものは苦手だ」
「ほう」
「タンクレディ、あんたとは違うんだ」
 苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てられる。一体何が彼をそこまで拗らせたのやら。俺が困った時に神様お願いします、何とかしてくださいと祈るのとは対照的に、リナルドは困難にあっても己と信頼できる他人しか信じない。
「でもここの宗教は、それこそ立場の弱い者の拠り所として生まれたのが起源だぜ?」
「だが、本当に困っている時に神は助けてくれなかった」
 それを信仰不足というのは筋違いだろう。黙って彼の言葉に耳を傾ける。
「生まれながらに周りと違う体で、周りからは侮蔑と嘲笑しか与えられなかった。こんな生まれながらに罪人のような身を救ってくれたのは父さんや国の人だ。神じゃない」
 リナルドは小さい頃の話を俺にするようになった。それだけ信頼を寄せられているようで嬉しく思うが、その内容を聞くたび心に棘が刺さる感覚を覚えるのだ。一人で何年も耐えてきた苦しみや悲しみは計り知れないだろう。そんなことがあれば確かに神を信じないというのも納得がいく。
 言うだけ言って何事もなかったかのように歩を進めるリナルドの横に並びながら考える。俺は神様はいると思っている。一人だけじゃない、何人もいる考えもあると古典で学んだ。昔のリナルドには気付かなくても、今の彼には神様の誰かが一人でも気付いていつか彼の苦難に力を貸してくれるんじゃないかと、そう祈らざるを得なかった。
 願わくば、彼の人生が今後優しい道で整備され、幸せで生きられますよう──。

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