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「あっ、おはよう!」
いつものように結に挨拶する。
本当はこの前の海デートの一件もあってお互い恥ずかしい気持ちもある、けれどもこれも習慣なのだろう、何の気なしに結を見かけたら自然と挨拶できた。
なのに……相手のほうはぼーっと上の空だ。
「おーい? おーい! 結!」
「わっ!? 絢未? おはよ!」
「う、うん……おはよ……」
結もあのことを気にして──というよりは本当に茫然としていて、突然声をかけられたからびっくりしている。
「上の空で歩いてたけど……。危ないよ、気をつけてよね」
「う、うん……」
「で? 朝からなんでそんな、ぼーっとしてるの?」
「あー、うん。──うーん……ちょっと、ね……」
結がしどろもどろになっている。
目を泳がせて体ももじもじと揺れて、妙に落ち着きがない。
これは……困惑?
「あのね……私……されちゃったんだよね……」
「えっ? 何を?」
「その……ぷ……ぷ……ぷろ、ぷろぽ──プロポーズ……」
………………。
私の中で時間が止まった気がした。
聞き間違いなんかではない……明らかに、プロポーズだと結は言った。
「プロポーズ? 誰に?」いやいや、誰なのか分かるでしょ、私!
なんてついノリツッコミをかましたくなるほど、私の質問はとんちんかんだ。
「忍田さん……」
ほら、当然の答えが返ってきた。
「嘘、ホントに? ホントに!? えっ、いつの間に!」
「車の中……絢未たちがまだ寝てる頃に。『俺と結婚してくれない?』って」
「え……えぇえええっ!?」
私がまだ寝てるあのときに、そんな状況になってたの!?
「まだ答えてないの?」
「うん、急だったし……。時間くださいって」
まさか、自分が立花さんにプロポーズされる夢を今朝方見て。
まさかまさか、結がプロポーズされてたなんて……!
なんたる偶然……恐ろしいな、このタイミング。
「結、教師とかどうするの? 先に結婚とかしちゃうの?」
「うーん、どうだろう……。でも教師になるのは夢だし……正直、諦めたくないな……」
「そ、そっか……そうだよね……」
結はいつも教師の夢を語っていたし、教師である両親のことも慕っていて、それはもううれしそうに話してくれたことを覚えている。
もちろん結婚してても教師になってはいけないなんてルールはないし、結婚してもいいのかもしれないけれど……なんとなく結婚のイメージができない。