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「ん……」
「あ、起きた? 新城さん」
気がつけば、忍田さんの運転する車に乗っていた。
窓から夕焼けのオレンジ色の斜光が入り込んできている。
「あれ、私、車に乗って?」
「もちろん立花さんが運んでくれたんだよ」
そう言う立花さんは隣で眠っていた。
「いやーごめんね。あんなことしちゃって。恥ずかしかったでしょ?」
「え? 恥ずかしかった……?」
「えー。覚えてないの、絢未?」
結が助手席から顔をひょっこり後ろの座席に向けて出してきた。
「結……。あっ! ああ……!」
結の声で思い出した……忍田さんと立花さんの彼女自慢が始まった、あのエッチのことを。
「絢未って記憶飛んじゃうタイプなんだね」
「う、うん……よくある……」
「立花さん、絶対傷つくパターンだよね」
「そうかも……」
「それにしても、ひどいですよ。忍田さん、立花さん。あんなことするなんて」
体勢を戻す結が、ボスンッと勢いよく背もたれに背中を預けた音が聞こえた。
「だから、ごめんってば。さっきも謝ったじゃない。それに、ほら……」
「あんなんじゃ許しませんからね」
「なんの話?」
「あー、気にしないで。とにかく! もうしないでくださいね!」
「はい、反省します。新城さんもごめんね」
「本当に反省してくださいね。……ま、こんなに反省してるし、許そうよ。ね?」
「まあ、絢未がそれでいいなら……」
話はひと段落。
安心した私は立花さんを見て、笑った。
だって、楽しかったし。
「忍田さん、ありがとうございました。おかげで楽しかったです。いい思い出できましたから」
「そう? なら、よかった」
本当にいい海デートだったと私は思う。
微笑みながら、手を繋いだまま眠る立花さんの手を、そっと握り返した……。