page - 36





「ん……」

「あ、起きた? 新城さん」


 気がつけば、忍田さんの運転する車に乗っていた。
 窓から夕焼けのオレンジ色の斜光が入り込んできている。


「あれ、私、車に乗って?」

「もちろん立花さんが運んでくれたんだよ」


 そう言う立花さんは隣で眠っていた。


「いやーごめんね。あんなことしちゃって。恥ずかしかったでしょ?」

「え? 恥ずかしかった……?」

「えー。覚えてないの、絢未?」


 結が助手席から顔をひょっこり後ろの座席に向けて出してきた。


「結……。あっ! ああ……!」


 結の声で思い出した……忍田さんと立花さんの彼女自慢が始まった、あのエッチのことを。


「絢未って記憶飛んじゃうタイプなんだね」

「う、うん……よくある……」

「立花さん、絶対傷つくパターンだよね」

「そうかも……」

「それにしても、ひどいですよ。忍田さん、立花さん。あんなことするなんて」


 体勢を戻す結が、ボスンッと勢いよく背もたれに背中を預けた音が聞こえた。


「だから、ごめんってば。さっきも謝ったじゃない。それに、ほら……」

「あんなんじゃ許しませんからね」

「なんの話?」

「あー、気にしないで。とにかく! もうしないでくださいね!」

「はい、反省します。新城さんもごめんね」

「本当に反省してくださいね。……ま、こんなに反省してるし、許そうよ。ね?」

「まあ、絢未がそれでいいなら……」


 話はひと段落。
 安心した私は立花さんを見て、笑った。
 だって、楽しかったし。


「忍田さん、ありがとうございました。おかげで楽しかったです。いい思い出できましたから」

「そう? なら、よかった」


 本当にいい海デートだったと私は思う。

 微笑みながら、手を繋いだまま眠る立花さんの手を、そっと握り返した……。

To be continued...

- ナノ -