梅雨明けが発表され、早くも空は夏へ向けた準備をはじめていた。気温も今までより高く感じられ、少し汗ばむ陽気だ。
「ねえねえ、最近、瀧来ないよね」
「そういえばそうだね。まあ、夏休みも近いし、生徒会で忙しいんじゃない?」
「ああ、そうかも」
そういえばたしかにそうだ。最近、電車で会うこともなくなった。たしかに生徒会で忙しいのかもしれない。
「瀧といえばさぁ、美歩の好きなひと知ってるふうなこと言ってたじゃん? あれ、結局誰だったんだろ」
「そうそう! 美歩! 好きなひとって誰よ!?」
「はぁ!? 教えない!」
「もうなによー。ちょっとは教えてくれてもよくない?」
「絶対おもしろがるだろうから言わない」
「そんなことないってばー。ねえ、ねえってばぁー」
「絶対にいや!」
絶対に教えないもん……。
「あ、いたいた。オーイ、都築」
「え、瀧くん?」
帰りのホームルームが終わって帰り支度を済ませたところで、教室の後方のドアから話しかけてきたのは最近ご無沙汰の瀧だった。
「な、なに?」
久しぶりに顔を見せたと思ったら、何しにきたのだろうとつい深読みしようとしてしまい、身構えてしまう。
「そう構えんなって。ちょっと話そうと思って、通りがかっただけだって」
「ホントに?」
「マジだって。──もうお前に関わったりしねぇって」
「え?」
「それだけ言いたかっただけ。このあとも生徒会で忙しいから、ちゃんと言っとこうと思ってさ。じゃ、そういうことだから」
「え、ちょっと瀧くん!?」
本当に生徒会で忙しいのだろう、瀧がその場から急いで離れようとしたところで、生徒会役員が瀧を呼びに来て、さらに早足で消えていった。
(もう関わんないって……なにがあったんだろう?──あっ、もしかして、この前の電車のことが関係してるとか!?)
あとを追いかけて問いつめたかったが、忙しい人間を呼び止めるわけにはいかず、釈然とはしないがあきらめることにした。