鬱陶しく思っていた雨も、最近は晴れの日が多くなってきて、梅雨明けが近いのだと実感する。
(やっと終わる……)
憂鬱だった雨の通学が。
とはいえ、満員電車なことは変わりはないし、最近の櫻井は忙しいらしく、ちょっかいをかけられなくなった。喜ばしいことだ。このまま平穏が戻ってくれれば……。
「お。都築、おはよう」
「あ、瀧くん……。おはよう」
瀧は、次期生徒会長と噂される同級生だ。社交的な性格で男女ともに人気がある。瀧とはこうして、ときたまに電車で出くわすことがある。
「今日は生徒会の仕事ないんだね」
「今日は休み。最近までは忙しかったからさ」
「そうなんだ」
急カーブで電車が揺れる。どうやら今日の運転士は下手なようだ。
そのせいでバランスが崩れ、瀧に抱きつくような形になってしまった。瀧は流れるように美歩を支えた。
「あ、ありがとう……」
「ああ。大丈夫か?」
「うん──わっ」
背中を押され、ただでさえ密着度が高い電車のなかで、より瀧との距離が縮まる。
「ご、ごめんね」
「いや……平気」
胸が苦しい。押しつぶされているに等しい状況だ。
(離れる……なんてこともできないし……。駅に着くまでこのままでいるしかないか)
「瀧くん、ホントにごめんね。大丈夫? 苦しくない?」
「大丈夫……」
そう言っておきながら、呼吸が荒く少し苦しそうだ。
こうして真正面で密着していると恥ずかしい。どこに視線をやればわからず、仕方なく目を伏せる。
(恥ずかしいな……。もう、早く着いてよ)
「都築……」
「え、なに?」
突然声をかけられて目線をあげると、瀧の目線とぶつかった。瀧の目はやや潤んでいて、どこか熱っぽい。頬も上気しているように見える。
「た、瀧くん? なに?」
尋ねても返事はない。ただ……口から紡がれるその熱い吐息が、物語っていた。──雄の本能を。
美歩の肩を支えていた瀧の手が降りる。やがてその手は尻に止まり、肉を鷲掴みにした。
「ちょ、瀧く……!──ん!」
瀧は自分の胸板に美歩の顔を押しつける、口を塞ぐためだ。美歩はむごむごと訴えかけようとするも、瀧の手はなおも臀部の肉を掴んで揉む。
(やめて、瀧くん……! もう……せっかく、櫻井くんから解放されたというのに……)