しとしとと降りつづく、陰鬱な梅雨の雨が車窓を叩く。帰宅時間と重なり、ただでさえ憂鬱な満員電車にじめじめとした空気がまとわりついて不快極まりない。
(やだな……雨……)
ぎゅうぎゅう詰めになった車内で、どうにかして埋もれないよう腕を突っ張る都築美歩。シャツは少し雨に濡れて乳白色の肩が透け、スカートには周囲に囲まれた傘に付着した雨粒によって湿っている。
延々と揺れる電車、美歩の沈んだ心に鬱が加速する。
美歩の最寄り駅は快速でも35分はかかる、通い慣れているとはいえ早く帰りたいと思う気持ちは抑えられない。
!──苛立っている最中で尻に違和感を感じ取った。誰かの手が当たっている、いや……どこか怪しいその手つきは美歩の臀部を探っているような。ただ、これだけ混んでいれば当たることもあるだろう。そう思って最初はさほど気にしていなかったのだが、やがてその手は形を確認するかのようにゆっくりと撫で回しはじめる……。
(え……もしかして触られてる……?)
やっと現状を理解した美歩。これは痴漢だ……ただ頭でわかっていても、どう対処していいかわからない。
(どうしよ……!)
混乱する美歩の心情を利用するかのように、その手はスカートの上からではなく、より生地が薄い下着の上からお尻を触る。ぞわぞわとした寒気が背中を襲い、立ちくらみでも起きそうになる。
(やだ……)
ぐっと時折肉を掴み、揉みほぐされる。痛くはないが、しっかりと触られているということに焦る。
(やだ……早く着いてっ……)
「ん……っ」
手が尻を撫で回すことに飽きてきたのか、とうとう秘部に指が這ってくる。
「や……っ」
ぐにっと指が沈み込み、間違えれば入ってしまいそう。その瀬戸際をギリギリで回避するその指は、まるで美歩を焦らしているようにも思えた。
(もうやめて……!)
心の悲鳴が漏れそうになったとき、プシューと音を立てて扉が開いた。
「美辻駅──美辻駅──」
(降りる駅……!)
長いこと待ちわびていた降りる駅に到着。美歩は逃げるように降車する。
相手に振り向くこともなく、美歩はお手洗いへまっしぐらに走った。そして個室に入り込み、はぁはぁと息を切らして俯くと、スカートの裾をぎゅっと掴んだ。