──『明日、返してやる。だから、また明日の放課後にここに来い』


 そう言われ、翌日、重い足をひきずるような足取りで風紀委員室の前に来た。


(気が重い……)


 とはいえ、いつまでも自分の下着を誰かの手に渡ったままにもいかない。
 ひと息ついて、引き手に手をかける。しかし、開かない。まだ鍵が開いていないようだ。


(まだ誰もいないのか……。櫻井くんもいないってことか)


 安心したような、そうではないような。なんとも複雑な感情が去来する。


(どうしよう……ここで待ってるのも変だよね。でも、いつ来るかわかんないし……うーん)


 首をひねって考えるけれども、いい案は浮かびそうにない。やがて出たアイディアは、どこか見渡しのいい場所で櫻井を待つという選択だった。


(まあ、いつか来るでしょ)


「ん? うちの委員会室になにか?」

「えっ? あ、あの」


 一旦、この場を離れようとしたら、声をかけられた。風紀委員のひとりだ。


「え、えーと……その、櫻井くんはまだかな、って」

「鍵、開いてないですよね。じゃあ、まだですよね」


 そう言って、鍵を見せびらかしてきた。このひとがどうやら鍵当番だったようだ。


「そろそろ来ると思いますよ。中で待ちますか?」


 そういうわけにはいかない。中で、下着の受け取りを見られるわけにはいかない。


「あ、いいえ。いいんです。また来ます、今日は委員会っていつ終わりますか?」

「今日はそんな大事な話をするわけでもないので、すぐに終わりますよ。30分ぐらいかな」

「そ、そうですか。じゃあ、それぐらいにまた来ます」


 美歩はその場をあとにした。


(30分かぁ……何して待ってよう……)


 教室に戻ってきて、自分の机に突っ伏した。

 誰もいない夕暮れの教室、外からはにぎやかな声が聞こえてくる。そんななかで、ただひとり、ぽつんと窓の外側を見つめる。


(というかそもそも、別に風紀委員室じゃなくてもよくない? こうやって教室で返してもらえばいいんじゃ)


 今さらそんな結論が頭に浮かぶ。
 そうだ、それに櫻井の教室は隣なのだから、教室に行って返しにもらいに行けばよかったんだ。


 椅子から勢いよく立ち上がって、櫻井の教室に向かった。


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