愛されたがりのマリア

 セオにひと通りの段取りを任せて、1週間が経ったところで工事がはじまった。
 ふたりで過ごす分にはたとえ一部朽ち果てていようと崩れていようと構わなかったけれど──もとより一日中ひとつのベッドで過ごすことが多かったため──、とはいえ魔物の巣となっていたこともあり、冒険者が根城だと勘違いするかもしれない。それならば、きちんと整備したほうがいいに越したことはない。


「今日はよろしくお願いします」


 セオが世話になったという老夫婦の家に向かうため、立派な馬車を借りた。修復には半年以上かかるため、それまでのことも考慮して大荷物になるから。それに移動に3日もかかるのだから、小さな馬車は不向きにだ。


「よろしくお願いします。ユーレニアまで、でしたね」

「はい」

「護衛も必要ないということでしたが、それで構いませんか?」

「ええ、大丈夫です」

「わかりました」


 こういう長旅には、護衛として冒険者グループを雇うのが普通だ。けれども、セオがS級冒険者であればもはや普通の冒険者グループでは足手まといになる可能性すらある、それにわたしの正体を隠しておきたい。だから工事費以外にはそれほど大きな出費はない。


「では、日程を確認させていただきます。ユーレニアまでは3日で着きます。初日の今日はカトリアナ、2日目の明日はシドアニア、3日目の明後日、順調に走れば夕方頃にはユーレニアに到着できると思います」

「わかりました。結構です」

「ありがとうございます。──では、出発します」


 馬車に乗り、しばらくすると馬がいなないた。そうして馬車がガタッと揺れて動き出した。

 ……なんだか、旅行のように思えて胸が高揚した。幼いころは体も弱かったこともあり、このような遠出はしたことはなかった。


「なにニヤニヤしてるんだよ」

「え? ああ、すみません……。わたし、旅行などはしたことがなくて」

「そうなのか」

「はい。小さいころは体が弱かったですし、不幸体質でしたので」

「そうか。なら、楽しめるといいな」

「はい!」


 しかも……セオと旅行だなんて。まるで新婚旅行のようで。──うれしい。