愛されたがりのマリア

 わたしの人生は不幸しかなかった。小さなものは何もないところでつまずくことからはじまり、大きいできごとなら魔物に襲われて死にかけたり。21年生きてきて、けがしなかったことは一度もない。
 そんなわたしでも、家族は優しく愛してくれた。……いや、今となれば「かわいそうな子」と思われていただけなのかもしれないけれど。


「お前のことなんか誰も助けてはくれないぞ……オレと一緒に楽しくやろうぞ!」


 悪魔──いや、魔物が囁いてくる。
 わたしは鳥籠の中の小鳥。魔物は愛しいペットに声をかけるかのように、わたしに話しかけてくる。そんな日々が1ヶ月は経ったと思う。
 わたしは1ヶ月前にこの魔物に襲われて、この辺境な魔物の根城に囚われた。話を聞くと──一方的に聞かされたが正しい──わたしに一目惚れしたらしく、一生の伴侶にしたくてさらってきたという。
 魔物は別に何もしてこないけれど、きっとそのうち、わたしはこの魔物に犯されるのだろう。

 そう、どうせ誰も助けには来てくれないのだろう……。どうせ、わたしは誰からも愛されなかったのだから……。


「よお、お姫様ー。無事かー?」

「えっ……?」


 奥から緊張感の微塵もない、棒読みにしてもひどい類の言葉が聞こえてきた。
 魔物とわたしは一斉にサルーンのほうを見る。

 門の前に立っていたのはたったひとりの男。黒いロングコートのフードを目深に被っている。フードから覗く口元は笑みで白い歯を見せ、腰には剣をいていること以外、これと言った特徴はない。そう、この男は軽装なのだ。もし、これで「助けに来た」と言われたものなら、呆れるしかない。……いや、きっとそうなのだろうな。


「なんだ、お前?」

「言ったろ? そこの王女サマを助けに来たのさ」


 笑みが消えることはない。この人は本気だ。こちらが目眩がしそうなほどに。


「そ、そんなわけない! お前みたいな──」

「だ、ダメ! 早く逃げてください!」


 まさか本当に助けに──けれども信じられる素材はなく、もし冗談で入ってきたのなら逃がさなくては。と思って、声をかける。しかし、それは一瞬の杞憂だった。


「お前みたいな──なんだって?」