愛されたがりのマリア

 セオとの結婚生活(仮)がはじまって、早一週間が経った。


「外に行きたい?」

「はい」

「なんでまた」

「服などを買おうと思いまして。いつまでも借りているのも、本当の持ち主の方にご迷惑ですし」

「細ぇなぁ……」

「それと……街の様子とか見てみたくて」

「あんまり見たことねぇのか?」

「はい。あまり外に出るなと言われていましたし、わたしも進んで街に出る気になれなくて」


 傷モノの王女と呼ばれることを怖れたのが一番の理由だ。


「買い物を済ませたらすぐに帰ります」

「やめておけ……って言っても、どうせ聞かねぇんだろ? わかった、俺も行く」

「本当ですか? ありがとうございます」

「幸い、この近くに俺の知り合いの商人がいる。そいつに馬車を借りよう」

「そうなのですか? セオは顔が広いのですね」

「まあ、依頼を受けた縁もあるがな。そうとなれば、早速行くか」


 セオに目立つからと言われ、変装と帽子を被るようにと言われた。支度を済ませてセオについていくこと、10分。近くの村に到着し、周囲の家よりも多少大きい建物に向かった。


「おーい、トムおじさんー。いますかー?」


 木製の戸をノックしてみるが、なかから返答はない。
 セオは隣にあった畑に移動する。すると、作物を収穫している初老の男性がいた。


「トムおじさん」

「ん? おー、これはセオじゃないか。久しぶりだな」

「お久しぶりです」


 あのセオが敬語を使って話している。本当にあのセオなのかと疑ってしまうほど、礼儀正しい。


「お前さん、この近くにいたのか」

「ええ、まあ」

「ん? 隣のお嬢さんは?」


 おじさまがわたしに気がつく。セオの命令もあり、失礼だけれど顔を伏せる。


「すみません、恥ずかしがり屋なもんで。俺の妻です」

「妻ぁ!?」


 おじさまが目を丸くして、ひどく驚いている。わたしも「妻」と呼ばれ、どぎまぎする。


「最近できたんです」

「おー、そうなのか……。お前さんがね……」


 説明されてもまったく信じられていないおじさまが、わたしの顔を確認しようと様子を窺っている。顔バレしてしまうとドキドキしていると、セオが隠すようにずいっと前に出る。


「それ以上はちょっと」

「俺にも紹介してくれてもいいじゃないか。減るもんじゃなし」

「いくらなんでもこればかりは無理です」

「ほー。お前さんにとってそんな大事な存在か。なるほど。ちなみに名前もダメか?」


 セオが「名前はどうする?」と訊ねてくる。名前だけならめずらしいものでもないから、大丈夫だろう。こくりと頷く。


「メアリーです」

「メアリーさん、か。いい名前だ。メアリーさん、アンタは愛されてるねぇ」


 そんなことはない。ここだけは声にして否定したい。