01俺は高値の華

「あっ、凌会長……っ、おはようございます!」


 来たか。

 これが俺の日課だ。


 爽やかさを意識して女子に笑いかけると、頬が赤くなっている。


「おはよう。今日はいい天気だな」

「そっ、そうですね! あっ、和宏先輩もおはようございます」


 まるでついでのような言い方だが、カズが優しい笑みで返す。
 なぜか?
 もう慣れているからだ。


「はよー。よかったねー、凌と話せて」

「はい!」


 女子は満足して、校舎の中へと姿を消した。


 俺たちも校舎に入り、駄弁りながら教室を目指す。


 俺は成瀬 凌、生徒会長だ。
 周囲は俺のことを容姿端麗、頭脳明晰……と誉めちぎり、文句なしの生徒会長と謳われている。


 隣にいる男は、俺の中学時代からの友人、カズこと瀬戸和宏。
 日焼けした小麦色の肌をしているのはサッカー部に所属しているからで、おまけに俺に負けないイケメンぶり。
 モテ条件が揃っているカズはまさに勝ち組で、彼女持ちだ。


 そこで、さぞや俺もリア充している──とは言えず、彼女がいるどころか童貞すら卒業できていなかったりする。


 昔から非の打ち所がないと言われ、話しかけられるようなことはあっても告白を受けたことがない。
 これは風の便りだが、俺は『高嶺の華』らしい。


 確かにそんな眼で見られている気もしなくもない。
 けれども、俺は高嶺の華などではなく、ただの健全な男子高校生なのに。
 生理現象でムラムラするし、AV見てオナったりだってするし、衝動的に無性にヤりたくなる。


 しかし、今は生徒会長という面目もあるので、下手に問題を起こすわけにもいかない。
 俺はとうとう、本当に高い山に種を蒔かれてしまったんだ。


 廊下を歩きながらその愚痴を零すと、カズがいかにも不服だと顔を歪める。


「いいじゃん、それー。男としてホント、うらやましいっての」

「はあ? お前だってモテてるやつの枠に入るだろ。それ、皮肉にしか聞こえねっつーの」

「言われてみたいわー。高嶺の華って」

「オイ、話逸らすな」


 羨ましがられても、これっぽっちも嬉しくない。
 こっちは普通の男に羨望を抱いている。


 俺は童貞卒業したいわ、マジで。


「いいよな、カズは。椿ちゃんっつー可愛い彼女がいるんだから」

「可愛いぃ? アイツが?」

「何だよ、その反応」


 話を聞くと、どうやら今は彼女がわがままを言い出し、それを叶えてやるのが次第に面倒になってきたらしい。
 よっぽど疲弊しているのか、本気に別れたいようだ。
 彼女のわがままが可愛いと言う輩もいるが、カズはそうではないみたいだ。


「どっかにいないかねー? わがまま言わない子」


 お前も十分わがままだと言いたいが、あえて胸にしまっておこう。
 面倒になりそうだから。

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