10飛べない種
「すみませんでした……」
凌君は重い口を開けるように、ゆっくりと詫びた。
そして、ゆらりと立ち上がり、出口へ向かう。
その淋しい背中に再び名前を呼んでも振り返ることはない。
それでもめげずにもう一度、口にする。
「成瀬君」
「さよなら、先生」
凌君はこちらを見ることなく、小さく呟いた。
私は胸に確かな違和感と痛みを覚えた。
ズキン──凌君のその別れの挨拶は、まるで一生のようなものに聞こえた。
もう、会うことはないと告げているように……。
凌君がこの場からいなくなったと理解したそのとき、私はその場に崩れ落ちる。
そして溢れ出してくる涙と一緒に呟いたのは、たった一言。
「好き……っ」
誰にも届くことのない、たった二文字の言葉。
私はもう、あなたに伝えることはできないの……?
「赤城先生! すみません、遅くなっ……て!? どっ、どうしたんですか!?」
ようやく現れた酒井先生のあたふたする声は私の耳に届くことはないのに、誰かが来たことに安堵し、彼の胸に抱きついてただただ、泣いていた。