夢の欠片
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大小様々な星がきらきらと瞬いていた。
それは満月の夜で、薄い雲が穏やかな風に流されていた。
湖は空を映して輝いて、その水面をじっと眺める男の子がひとり。
届かない満月に手を伸ばす。
――だめだよ――
*****
頭がぼーっとして、何となく夢のことを思い出していた。
さっきの夢に何か意味があったのだろうか。
『ま、いいか』
夢なんて考えても仕方ないと自分に言い聞かせるように呟いた。
横で寝ていたはずのクリスはいなくて、アンはまだぐっすり眠っている。
クリスは朝風呂に行ったのだろう。
日本に来てからずっと入りにいっていたから、今日もそうだと思う。
だからそれはいいとして、ちらりと目に入った時計を見ると既に朝食の時間は過ぎていた。
思わずため息が出てしまう。
目覚ましをスマホで設定していたはずなのに…
そう思って自分のスマホを探すと、置いておいたはずの枕元にそれは無い。
布団を捲ってみても見つからない。
私に考えられる理由はひとつしかない。
『アン、起きて』
「んー」
『アン』
「ん」
んは返事に入らないんだよ?
私はアンの布団を一気に捲り上げた。
空気がしっかり入るようにして、もう一度アンに掛けなおす。
身震いしながら起き上がったアンの手には思った通り、私のスマホがあった。
「んー…シャル…おはよう…」
『おはよう。またアラーム勝手に消したでしょ。 お陰で朝ごはん食べ逃しちゃった』
「え、嘘!もうそんな時間?あーショック…じゃあ…」
なにやら動き始めたアンが何をするのかしばらく見ていると、布団を敷き直してその中に潜り込んだだけ。
「こらアン、寝ないの」
「っ!?び、びっくりしたー」
『お帰り、クリス』
アンはクリスを見たまま硬直しているけれど、また眠ってしまうよりはましだからそのまま放っておくことにした。
それよりも考えることは他にある。
「今日、どうしようか」
基本ノープランな私たちは、今日の予定なんてもちろん考えていない。
とりあえず雑誌をめくろうとしたときだった。
短い聞きなれた着信音がなった。
『なんだろう?』
メールを開いてみると、送り主は私が姉と慕うリリス様。
内容は、
『えっと、日本には面白い植物があるから、暇なら見てくればって。リリス姉が』
「面白い植物?」
『鬼灯様がお詳しいから訪ねてご覧なさい。アポはとっとくわ。はーと。だって』
「リリス様がおっしゃるなら、行ってみようよ。アン!」
「え、あ、うん。準備する!」
半分寝かけてたアンはクリスに怒られるとでも思ったのだろう。
一気に起き上がって身支度を始めた。
私はリリス姉にメールを送って、時間の確認をした。
返信は以外とはやくて、今日ならいつでもいとのことだった。
私も準備をはじめて、ちょうど終わった頃にまたメールがきた。
鬼灯様ってこの方よ。はーと。写真添付。
リリス姉と数日前にお世話になった鬼灯様が2人で写っていた。
「準備できたよ!!行けるよ!!」
アンのこの言葉を合図に、私たちは旅館を出た。
すぐにでも鬼灯様のいる閻魔殿に行きたいところだけど、朝ごはんを食べ逃したし、ちょうどお昼時だから昼食をとるのが先だ。
とりあえず閻魔殿に向かう途中に見つけたレストランに入ることにした。
ドアを開けようとしたとき、同じくそうしようとした人が目の前に現れた。
『あ、お先にどうぞ』
「いえいえ、どうぞお先、にっ!?」
私の右側に突然ばたりと倒れこんだ巨体の彼はいたた、なんていいながら立ち上がった。
それから後ろを振り向いて、一言。
「痛いよ、鬼灯君」
「せっかく譲って頂いたのですからさっさと入りなさい。休憩時間は限られています」
『あ、』
「おや、雛さんも昼食ですか。ではご一緒にいかがですか?大王が奢るらしいですよ」
『え?』 「え?」
「ここにいては邪魔ですし、入りましょう」
「え、あの、鬼灯君?」
鬼灯様はおどおどする彼をおいで中に入っていく。
その鬼灯様にどうぞと促された私たちも中に入った。
もういいよ、と呟いた彼が最後に席についた。
『あ、えっと、この前はありがとうございました。それから今日もいきなりすみません』
「いえ、興味を持っていただけるなら、私も嬉しいですし」
メニューを見るとあり得ないサイズのステーキの写真が載っていた。
XLってなんだろう……
「ああ、君達が今日くるっていってた子達か。ワシは閻魔だよ」
『私はシャルロットと言います。こっちはクリステル、その隣がアンジェラです』
「今日はお世話になります。クリスとお呼びください」 「アンだよ、よろしくです」
あまりに気さくなアンをクリスがつついた。
「うん、よろしく。あれ?そういえばさっき鬼灯君は雛って」
『はい。先日、白澤さんにつけてもらいました。日本にいる間はそれもいいかなと』
「ああ、なるほど。よく鬼灯君がその名前呼んだね。 あ、じゃあワシも雛ちゃんて呼ぼうかな?」
『はい、ぜひ』
「失礼致します。こちらLLサイズのステーキでございます」
で、でかい……。
運ばれてきた大きなステーキは閻魔様と鬼灯様の前にひとつずつと、私たち3人の前にひとつ。
『え?いつの間に』
「楽しそうだからいいじゃん。3人なら多分なんとかなるよ、多分」
アンは楽しそうにステーキにナイフを刺した。
これを3等分したとして、私は何g食べればいいのだろう。
先が怖いけれど、食べるしかない。
出されたものはきちんと食べるのが日本のマナーだと聞いたし、残さないように頑張ろう。
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