チョコレートも失笑
綱立でちょっと糖度高め?


今日はマネージャー全員が1日オフにして欲しいと監督に頼み込んでようやくもらえた久しぶりのオフで。
みなさんそれぞれの休日を(円堂さんや豪炎寺さんたちは自主トレ、鬼道さんはデータとにらめっこ。木暮くんは壁山くんやメガネさんに相変わらずイタズラをしていたり、本当にみなさんそれぞれに)過ごしていた。


そしてオレはというと、合宿所のキッチン前の「立ち入り禁止!」と書かれた貼り紙の前にいた。


「た、立ち入り禁止って…」

この先にいるであろうマネージャーに用があるのに、なんて頭を悩ませていると、気配を感じたらしく、木野先輩がひょっこり顔を出した。

(びっくりして思わず逃げそうになったのは、オレだけのひみつ)


「あら、どうしたの?立向居くん」


今日はキッチン立ち入り禁止なの、と申し訳なさそうに、(だけどどこか楽しそうに)木野先輩が言う。
そんな木野先輩の後ろから、音無さんや夏美さんが男子禁制よっなんて言う声も飛んできた。


「あの…っ!!」



見えない2人の声にやっぱり逃げそうになったけれど、これを逃したらもうチャンスはないかもしれないと思って、オレは覚悟を決めて木野先輩にとあるお願いをした。



………




夕飯も終わって、食堂の雰囲気がまったりとしはじめた。
…けれど、なんだかみなさんがソワソワしているような気がするのは気のせいだろうか。


「立向居くん、ほらっ」
「あ、はい!」

音無さんに小さく呼ばれて、オレは慌てて廊下に出ると支度を始めた。





「はーい、みんなちゅうもーく!」



雷門の母こと木野先輩の声がまったりした食堂に響くと、たくさんの目がぎょろりと一斉にこちらを向く。
みなさんの目が期待に輝いているように見えるのは、やっぱりオレの気のせいなのだろうか?


「みんな知っての通り2月14日の今日はバレンタイン、なので」





「「私たちからみんなにチョコレートのプレゼントでーすっ!!」」



というマネージャーの言葉と同時に、わぁっとみなさんから歓喜の声があがる。
なんだかんだ言ってもやっぱり中学生なんだなぁ、と思って小さく笑ってしまった。雷門カラーでラッピングされた袋を受け取って、みんなほくほくした表情をしている。
笑顔が連鎖して、オレも笑顔になった。

「――そしてそしてっ!最後にサプライズなプレゼントもあるんですよっ」

とりあえず全員にチョコレートが行き渡った頃、音無さんがアイコンタクトも確認も何もなく突然そう言った。

「立向居くんからも、みんなに日頃の感謝を込めてプレゼントがあるんですって」

優しいわよね、なんて笑いながら木野先輩までも話を進めていく。
本当か!なんて、円堂さんを始めとするみなさんに言われてしまったので、オレは仕方なく足元に置いておいた紙袋を取り出した。

「みなさんにはいつもお世話になっているので、オレもバレンタインに便乗してみました」

味は保証しかねますけど、と付け足して、一人一人に感謝の気持ちと一緒に小さい紙袋を手渡す。
ありがとな、なんて言われて逆にありがとうございますと言ったら、みなさんに笑われてしまった。




(…あ、れ)


紙袋の底に余った、小さい桜色。
キョロキョロ食堂を見渡してみるけれど、さっきまでいたはずの場所に彼はいなくて。仕方がないので、オレは食堂の外を探しに行くことにした。


……………


「あとはここだけなんだけど…」

結局、グラウンドにも大浴場にも彼の姿はなくて。
もしかしたら、と思い、最後に部屋へ足を向けた。



コンコン、

控え目にノックする。
けれど扉の向こうから返事はない。


コンコン、

もう一度、今度は少し強めにノックする。
けれどやっぱり扉の向こうから返事はなくて。

(うーん…)

他を探すか少し迷ったけれど、一応部屋の中を確認してからと思い、扉を少しだけ開けた。



(あ、)


間接照明だけの薄暗い中に見えた桜色。

(寝てる…?)

音を立てないように扉を閉めてそっと近づくと、背を向けられていて表情は見えなかったけれど規則正しい寝息が聞こえた。

(仕方ない、よね…)

チーム最年長の彼――綱海さんは、今年受験生。毎日のハードな練習と勉強をこなしていくのはすごく大変なはず。


「…お疲れさま、です。それと、いつもありがとうございます」

本当は直接言いたかったけれど、疲れて寝ているところを起こすわけにはいかないから枕元に包みを置いて去ることにした。



「っ、!?」


くるりと綱海さんに背を向けた瞬間に突然手首を掴まれて、数秒前まで綱海さんが寝ていたはずの布団にばたりと倒れ込んだ。

「わ、むぐっ!?」

驚いて声をあげようとしたけれど、何かに口を塞がれて。
突然歪んだ視界が元に戻るのと同じくらいに、その「何か」が綱海さんの手であることを理解した。
騒ぐな、よ?と言って手を離した綱海さんは、嬉しそうで、でも不機嫌そうで。
けれど薄暗い部屋で、しかもやや組み敷かれた状態では、いまいち表情がわからない。


「…ふて寝してたんですか」


ズルいですと付け足して、オレはぽつりと問いかける。

「…勇気が悪い」すると拗ねた子供のような口調で返されて。オレは訳が分からず怪訝そうな顔をして問い返す。

「勇気のチョコは俺だけが欲しかったのに」

「!」


ふてくされた顔でそんな事を言うから、オレは思わず赤面――なんてする訳なく、馬鹿、と呟いた。

「皆さんのチョコには、ありがとうの気持ちを込めたんです。」

オレの反応が予想外だったらしい綱海さんは、目をぱちぱちさせて動かない。オレはそのまま喋り続けた。

「…でも、あなたには『好き』の気持ちを込めたんです」

「!!」

…なんて勢いで言ってみたものの、すぐに恥ずかしくなってすぐに綱海さんから顔を背けたら、頬にキスされて。
慌てて抵抗を試みたけれど、組み敷かれた状態では綱海さんにされるがままでしかなく、今後は唇にキスされた。

「ちょっ…!!オレはチョコじゃないですっ!!」

「…可愛いこと言う勇気が悪い!」

「何わけの分からないこと言ってるんですかってんん…っ」

必死にもがいてみるも、顎を持ち上げられてしまっては逃げることが出来ない。
角度を変えて何度もされるキスに心地よさを感じた頃、ちゅ、というリップ音の後に耳元で綱海さんが囁いた。



「なぁ…チョコより甘いバレンタインにしようぜ?」





《チョコレートも失笑》



(なぁなぁ。さっきの言葉、もう一回言って?)(馬鹿、ですか?)(ちげぇよ!!好き、って)(……っ!!絶対に嫌ですっ!!!)


Fin.



*ぶっちゃけ一年前から書いてたやつだったりしたりしなかったり(笑)
久しぶりに綱立いちゃこらさせられて満足です^^*
ハッピーバレンタイン!!

20110214
※無断転載厳禁





Topへ戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -