ハッピーバレンタイン



「えーと…… シャークさん、これは……?」
「バレンタインだ。」

見てわかるだろ、と言わんばかりの恋人を前に遊馬はもう一度視線をテーブルに戻すとそこには一口大に切り分けられ少し大きめの白い皿に盛り付けられたバナナと、封の切られていないチョコレートソースが置かれている。


「ほら、好きなだけ喰え」

と渡されたフォークとテーブルの上とを交互に見、遊馬は内心で肩を落とす。

「(シャークが料理苦手っていうのは知っていたけど、さすがにこれは……)」


今回のバレンタインは2人が付き合いだしてから初めてということもあり、当初は市販で済ませるつもりだった凌牙を何度も何度も説得しようやく手作りで!! ということを押し通したのだ。

あまり期待すんなよ――とは言われていたものの愛する彼女からの手料理(しかも初めて)に期待しないはずがない。


待ちに待った今日2月14日に彼女が住むマンション(親元から離れて1人で暮らしている)に招待され、今に至る


たくさんの板チョコレートの包み紙が押し込められているごみ箱や凌牙の背中で隠されたキッチンに積み上げられ所々焦げたチョコが付いている調理器具を見て、自分の為にここまで頑張ってくれた恋人を愛おしく感じる一方で大きく膨らみすぎた期待が風船のようにしぼんでいくような複雑な気分でテーブルの上の皿とソースに目を向けた
(さらに言えば、そのソースはここに来る途中で凌牙に頼まれて遊馬が買ってきたものである)。


黒こげでもいいからシャークが溶かしたチョコがよかったなー、なんて考えているとそれまで黙ってテーブルの向こう側に座っていた凌牙が突然

「悪かったな、チョコすらまともに溶かせない女で」

今度他の買ってやる、とバナナの乗った白い皿を持ち立ち上がった

「(やばい、)」

明らかに不機嫌そうな声色に遊馬は慌てて凌牙を押し止め、半ば強引に受け取った皿をテーブルの上に置いて自分もテーブルの前に座った。


「いただきまーーす!!」

「……ふんっ」


遊馬に促されしぶしぶ先程のようにテーブルの反対側に座りはしたが完全に機嫌を損ねている凌牙に負い目を感じながら、遊馬は皿の上のバナナを1つフォークに取りチョコをかけて口に運ぶ

「うぉぉぉー!! うめぇ!!」


思わず自分の口から上がった大声に内心驚きながらそれ以上にチョコバナナの美味しさに驚いた。

遊馬もチョコとバナナが合うことは知っていたし実際に祭の出店で売られていたのを食べたこともあった。しかしその時のものとは何かが違う。ほど良く熟れたバナナの甘さとチョコレートソースのほろ苦さが絶妙で、皿の上に直接ソースをかけ一気にたいらげた。


「ごちそうさまーっ!! いやーうまかったぜ」



勢いよく(もちろん本心で)声を上げたが返ってきたのは「あぁ」という気のない言葉だけである

恐る恐る上目遣いに凌牙をうかがうと右手で頬杖をつきながらそっぽを向いたまま座っている。さすがにばつが悪くなってきた


「シャーク……その……ごめん!!」

「別にお前に怒っているわけじゃねぇよ」

「え?」

「言っただろ……悪かった、って」


そう言う凌牙の目はどこか寂しげだった。おそらく恋人の願いを満足に叶えることの出来なかった自分自身に腹を立ているのだろう


「別にシャークは何も悪くねえよ!! ちょっとぐらい料理が苦手でも頭がよくてスポーツできてデュエルも強けりゃ文句なしじゃん、それにシャークが作ったものなら何だって食べる!!」


テーブル両手をついて前のめりになりながら力説する遊馬の真剣な表情に凌牙は頬が緩むのを感じ慌てて顔を逸らす

「腹壊しても知らねえからな」

やっと笑顔が戻った凌牙に安堵した遊馬の目にあるものが留まった


「(うわ……、シャーク指細っ……)」

テーブルの無造作に置かれた左手は陶器のように白く滑らかでそれだけで完成した芸術品のようだった


遊馬はごくりと唾を飲む。手元のチョコレートソースがちょっとした悪戯心に火をつけた




「シャーク……」


「何――って、おい!!」


急に遊馬が凌牙の左手首を掴み皿の上辺りまで引っ張った。
突然のことで凌牙はバランス崩しかけたが右手で上体を支え何とか持ちこたえる



「おい!? 何のつも……――っ!!」


遊馬は何も言わずに空いている方の手でチョコレートソースを凌牙の指先に絡ませそのまま口に運ぶ



「遊馬っ……、――っあ」


遊馬の口内で指先を舌で舐められる度にビクッと跳ねる凌牙の身体


頬が赤く染まりだんだんと涙目になる凌牙に遊馬はようやく顔を上げる


「好きなだけ食べていいんだろ?」


そう言って凌牙の薬指にそっと口付けた



ハッピーバレンタイン


「(……倍で返してくれるんだろうな)」


「(うっ……)」







―――――――――――――

初書きです。そもそも小説自体初めてです(汗)

最後が書きたかっただけ
後悔はしていない……


ホワイトデーに間に合うように1週間前位から書き始め完成がホワイトデーの1週間後という……

やっぱり文章書くの難しいな(涙)


2012/3/21
2012/6/3 行間修正






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