鼻につく血の臭い。むせかえりそうな程の臭いが辺りに広がっている。
まだ煙が出ている銃を少し振って煙を飛ばしてから太もものホルスターにしまった。




今日は街で吸血鬼騒ぎが起きている地に赴いて冥使の討伐が任務だった。

「フレディ、大丈夫か?」

「あぁ。こっちは終わったよ」

数少ない友達の一人のチェロ。
ダークブラウンの髪に翡翠のような瞳を持っていて
チェロはすれ違えば誰もが振り返るようなカッコいいやつ。

幼なじみでもあり親友でもある。
チェロと任務に行くのは久しぶりだった。

この前のレナの件は少し長い任務だったので久しぶりにハードな任務に就いた。

街の人に聞き込みをすれば吸血鬼騒ぎを起こしている人は数名。
目撃も沢山いたので特定もすぐに出来た。
何よりも濃い血の臭いを辿れば分かった。

「まさか8人も冥使が彷徨いていたとはな」

「まぁ友達から友達に入触されたんだろうね」

チェロは冥使の死体に一つ一つに死亡確認をしていた。
オレも確認をして、埋葬しなくちゃいけない。


 
冥使の存在を世間に広げる訳にはいかない。

確認しながら周りを確認する。
薄暗い路地裏におびき寄せて始末したので人は誰一人としていない。
吸血鬼騒ぎで夜に出歩く人なんていないから当たり前か。

ここ一面に広がる血溜まりは血の海って言っても過言じゃない。
冥使を撃てば人と同じぐらいの出血だが、舌や場合によっては首を切れば人以上に血が吹き出る。

実際にオレのコートにもべっとりと冥使の血が付いている。
気持ち悪くなってオレはコートを脱いでひとりの冥使の体に掛けた。

「フレディ」

「ん?」

「こっちは確認が終わった」

「あ、ごめん。こっちはもう一人」

少し物思いに耽っている間に終わったようだ。
オレはもう一人の冥使の生死を確認すべく近付いた。

うつぶせに倒れている冥使の顔を少し上げた。
他と同様に目は閉じられていた。



脈を確認しようと首に触れた時だった。



「っ!?」

にょろっと長い舌が伸びて手に絡まった。


慌てて銃に手を伸ばそうとしたが捕まった片腕を冥使が掴んでオレの体は建物の壁に投げつけられた。


「ウゥ…ア…」

「まだ生きて…!?」

「っ」

派手な音を立てながらオレは背中を思いっきりぶつけた。
頭も打って一瞬視界が黒くなって受け身がとれないまま地面に落ちた。

「フレディ!!」

「かっ…げほっ」

チェロの声が聞こえたけど体を起こすのが精一杯で声が出なかった。

…油断した。
まだ絶命していなかったとは予想だにしなかった。

「アアア…!」

冥使がチェロに襲いかかるのが目に映った。
でもチェロは上手く体を逸らして攻撃を避けてそのまま後ろに飛んだ。

オレは意識が朦朧としている中で銃を取ろうとホルスターに手を伸ばしたが銃がなかった。

(…あ、れ…?)

頭がぐわんぐわんして何も考えられない。あるべきものがない。…どこにある?


「フレディ!!」

「…?」

チェロが緊迫した声音でオレを呼んだ。



状況把握がままならないオレはチェロが叫んだ理由が分からなかった。


「避けろ!!」




ドン


言葉と同時に銃の発砲音が鳴り響く。

肩が急に熱くなった。




「うぁ…っ」

ヤバい
撃たれた…っ

冥使がオレを投げ飛ばしたときに銃を取ったのか。
まさか冥使が銃を使うなんて思わなかった。


血が肩から何の恩恵もないのにとめどなく溢れ出す。
血の臭いに冥使が嬉しそうにうめき声を上げながら近寄ってくる。

(避けないと…)

次は舌が絡まってくる。
そしたら入蝕されてしまう。



でも体が動かず、撃たれた事によって更に意識が薄れていった…─












………ィ


…フ…デ…



…フレディ…っ



誰かが呼んでいる。
でも周りは真っ暗だ。
何も見えない。

オレ…どうしたんだっけ…?



「お願いフレディ。目を覚ましてよ…っ」

「………ね、ちゃん…?」

「フレディ!?」

あれ?
ここは…?


 
見えるのは白い…天井?


 

え?病室?

「フレディ!」

ボロボロ泣くねえちゃんがオレの手を握って頬に寄せた。
どうにか意識を覚醒させて周りを見渡せば安心したように泣きながら傍に来る母と泣くのを堪えている父の姿。
レナの横にはチェロがいた。

「…あれから…?」

「フレディが気を失ってから俺が冥使を撃って任務終了。処理は別の人に任せて急いで村に連れ帰ったんだ」

俺もフレディも血まみれだったから普通の病院には行けなくてな、と言ってチェロは俯いた。

「もう俺…ダメかと思って…」

「チェロ…」

「油断なんてするなよ!」

レナがうんうんと泣きながら頷いた。
握られた手のひらはどちらの温度が分からないけど温かかった。

「フレディと話せなくなるんじゃないかと思ったらもう全然寝れなかったよ…っ」

「ねえちゃん…」

レナは一回オレが死ぬのを見ている。
記憶に強く刻まれたあの衝撃と恐怖、悲しみは彼女の心に消えることなく残っている。

 
「ごめん…」

「いいよ。フレディが生きてくれてたらそれで十分だよ」

うんうんと頷くねえちゃんはそのままオレに抱き付いた。

(あわわわっ)

首に回された腕にぎゅっと力が込められる。慌てるオレにも気付かずにねえちゃんは泣いている。

そんな光景を泣き笑いながら見ている父さんと母さん。チェロは意地悪く視線を寄越してきたので目を逸らすことで虚しい抵抗をする。




(あぁ…帰ってきたんだなぁ)




血生臭い場所から形は何であれ帰ってこれた。
誰かが自分の身を我が身のように案じてくれるならこれ以上の幸せって無いと思う。







END



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