Stage3「ヒマワリみたいな気持ち」楓子「レンくん…まだ待っててくれてるかな…」
待ち合わせをしていた花壇へ急いで向かっていると、下駄箱のあたりに人だかりができていた。
校舎を出て行こうとする生徒全員、カバンの中身をチェックされている。
崇生「あ、楓子ちゃん」
楓子「崇生先輩!」
そばにいた生徒会長の崇生先輩に声をかけられる。
楓子「これ…何してるんですか?」
崇生「ああ、なんだか急に、教頭先生から抜き打ちの持ち物検査をするように言われて…」
(持ち物検査?)
崇生「生徒会総出で、ここでカバンの中をチェックしてるんだ」
楓子「そうなんですか…」
崇生「夏休み前で気が緩んでいる生徒がいないか、注意を促したいみたいなんだけど…俺としてはあんまり気が進まないんだよね」
崇生先輩が困った顔をする。
崇生「せっかく明日から楽しい夏休みなのに、こんなところで引っかかって、反省文で補修になんかなったら、かわいそうだろ」
(崇生先輩って頼もしくて、優しいな…)
崇生「だから早めに終わらせちゃいたいんだ。ということで」
楓子「はい?」
崇生「楓子ちゃんのカバンも確認させてもらえる? 楓子ちゃんみたいな真面目な生徒のことを報告しておけば、教頭先生も安心するだろうから」
崇生先輩が笑顔で私を促す。
そのとき、あることに気が付いた。
(私のカバンの中には……鴻上先生へのプレゼントが入ってる……)
楓子「……」
崇生「楓子ちゃん? 確認させてもらえる?」
楓子「…あ、あの」
崇生「どうしたの? すぐに終わるよ」
楓子「ちょっと…」
(プレゼントを持ってるのを教頭先生に報告されたら、没収されちゃうかもしれない……!)
渋る私を見て、崇生先輩の表情が変わった。
崇生「もしかして楓子ちゃん…何かいけないものでも持ってるの?」
楓子「いけないものっていうか…」
崇生「楓子ちゃんに限ってそんなことはないと思ってたけど…」
崇生先輩が私の前に立ちはだかる。
崇生「君だけを見逃すわけにはいかないんだ。ちゃんと確認できるまで、ここは通せない!」
(崇生先輩、優しいけど、やっぱり厳しい……!)
楓子「こ、これだけは、誰にも見せられないんです!」
崇生「そ、そんなにすごいものが入ってるの!?」
楓子「大事な! 大事なものなんです…!」
崇生「そんなこと言われても、俺にも生徒会長としての義務が…!」
下駄箱で押し問答をしていると――
レン「……児玉……先輩」
楓子「えっ!?」
どこかから聞こえてきた、か細い声に振り返る。
昇降口のガラスドアに、真っ青な顔をしたレンくんがもたれ掛かっていた。
楓子「レンくん!」
崇生「柴咲! どうした!?」
崇生先輩と2人、慌てて駆け寄る。
グッタリと倒れそうになるレンくんを崇生先輩が抱えた。
レン「先輩……待ってたのに……」
楓子「ごめんねレンくん…! 夏休み中の役割分担しようって約束してたのに…」
崇生「それにしたって柴咲、何があった!?」
青白いその顔をのぞきこむと、息も絶え絶え、レンくんが言う。
レン「お腹が……」
楓子「お腹痛いの!?」
レン「お腹が…空いて……」
崇生「え?」
レン「お腹が空いて……力が…出ない」
崇生先輩と顔を見合わせる。
(そういえばレンくん、何かに熱中して、ご飯を食べ損なうことがよくある……)
崇生「お腹が空いてるってことは、血糖値が下がってるのかも。楓子ちゃん、何かちょっとした食べ物持ってたりする? アメとか」
楓子「アメですか?」
崇生「アメくらいなら持ち物検査には引っかからないから。とりあえず柴咲に何か口にさせたほうがいいと思うんだ」
楓子「アメはないですけど……」
(プレゼントの中にクッキーが……でも……)
楓子「……」
レン「先輩……何か食べさせて…」
崇生「柴咲、もうちょっとの辛抱だ!」
(いくらレンくんが可愛い後輩でも、このクッキーは、鴻上先生のために作ったものだから……!)
レン「……先輩」
崇生「楓子ちゃん! 早く何か食べ物を!」
楓子「ご、ごめんなさいー!!」
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