手と手つないで-05
「おい、また夏目が変なことしてるぞ」
「どうしてそんな事を言うの・・・?」
「近寄るな嘘がうつる!」
無邪気な声がこだまする
ああ・・・
なんて残酷なんだろう
薄っすらと瞼を開くと、真っ直ぐに伸ばした自分の左腕が見えた。
手首には白い縄がしっかりと結ばれていて、その反対側は隣の布団で眠る夏目くんの右腕へと繋がっている。
布団を敷きに来た仲居さんは常に隣同士の私達二人を見て始終にこにこ顔をしていた。
50pぐらいの隙間を空けて布団を2つ並べると、縄が絡まない位置にそれぞれ横になった。
最初のうちはなかなか寝付けなかったものの、旅の疲れもあっていつの間にか眠りについていた。
夢の中で私は小学生ぐらいの男の子になっていた
毎日がつらくて、寂しくて、苦しくて・・・
何もせずにそこに居るだけで罪悪感を感じた
誰にも頼る事が出来ず
自分独りではどうすることも出来ない
少しでも早く時間が流れて
誰にも迷惑をかけずに一人で生きていければいいのに
誰も傷つけずに
心穏やかに生きていきたい
私の意識は夢と現実の狭間で不安定にゆらゆらと彷徨っていたが、不意に隣から聞こえてきた嗚咽で現実に引き戻された。
月の光を透かした障子は真っ黒の格子が際立って、それを背景に夏目くんのシルエットが見える。
繰り返し瞬きをすると、苦しそうに上下する胸元が見えた。
私はゆっくりと起き上がり、畳に手をついて夏目くんを覗き込んだ。
暗闇でも良く分かる白い肌
眉間にシワを寄せて苦しそうに顔をゆがめている
目元には涙の流れたあとがあった
そうか
さっきの夢は夏目くんの記憶
私が話した思い出話の所為で彼の子供の頃の記憶を蘇らせてしまったのかもしれない
先ほど味わった胸が張り裂けるような痛みはまだ体に残っている
彼は今でも昔の記憶に縛られているのだろうか
今日出会った彼の知人達は、人も妖も皆心優しい者達ばかりだった
お互いを思いあっているのに
思いあっているからこそ深い繋がりを避けてしまうのだろうか
涙のあとを拭ってさらさらの前髪に指を通した。
縄で繋がれた手を重ねる。
繋いだ手のひらが握り返されたかと思うと、手首に絡まる縄が青白く光っている事に気がついた。
それは一定の間隔で繰り返し光っては消え、光っては消え・・・
まるで鼓動みたいだ。
なまえは起こさないように気をつけながら右耳を夏目の左胸のあたりに押し当てた。
彼の鼓動が響く度に目の前の白い縄も同じタイミングで弱々しく光る。
この縄は二人を繋ぐだけではなく、精神の架け橋になっているのかもしれない。
--心が通じ合わないと縄は切れない--
ゆっくりと瞬きをして瞼を開く
気持ちが通じ合わないといけないと勝手に思い込んでいた
心を通わせあうって事だったんだ
「大丈夫、君は優しい・・・妖たちも、あの女性も男の子も・・・みんな君のことを大切に思ってる」
繋いだ手が再び握り返され、仰向けに寝ていた体が急に横を向いた
苦しそうに上下する喉元が直ぐ目の前にある
この縄が心を繋ぐ架け橋なら
私の暖かい記憶も彼の心に流れ込むだろうか
なまえは小さく息を吐いて、白くて細い夏目の体をしっかりと抱きしめた
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