ShootingStar-03



「シリウスってかっこいいよねー」

大広間から出て、大理石の階段を上りながらエミリアは夢見るように繰り返しそう呟いた。

なまえは目を輝かせている友人の隣で、もうどうしようもないくらい落ち込んでいた。


嫌われている。

元から好かれてたとか、そういうわけでもないけど。

少なくとも前は今よりもいい印象だっただろう。

夕食の間中、テーブルの向こうにいるシリウスの不貞腐れた態度が気になって、ジュースさえもほとんど喉を通らなかった。

女子寮の自分の部屋に戻ってもまだエミリアがジェームズやシリウスの話をするので、なまえは具合が悪いと言ってカーテンを早々に閉めた。

目を瞑っても今日のシリウスの怒った台詞やなまえを見る目つきが頭からはなれずに、何度も何度も繰り返し瞼の裏をよぎる。

ベッドの天井を見上げているのにも飽きて、カーテンをそっとあけてみた。

同室の生徒達はもう皆眠ったようだ。

聞こえるのは安らかな寝息と、床をしのび歩くなまえの足音だけだった。



窓の外は雲も無く、星が遠くで瞬いている。


ゆっくりと窓を開けると、湖に映る星がなまえのいる空間をよけいに広く感じさせた。

しばらく遠く夜空を見上げていると、東の山間のほうで何かキラリと光るものを見つけた。

目を凝らしてみるが、その辺りには星はなく静かに夜空が広がるだけだった。


見間違いか、それとも人工衛星か。

すっきりしない頭でなんとなく考えていたら・・・


また


今度は別の場所でキラリと光った。

「動いてるの・・・?」

なまえがそう呟くと、今度は今までよりもずっと上の高さから、星空に弧を描くように白い光が走った。

「流れ星かな・・・」

その後もその光を目で追っていたが、しばらくすると少しも見えなくなりなまえは諦めてベッドに入った。

目を使ったせいかそのまますぐに眠りについた。


*******************

翌朝、エミリアの声で目が覚めた。

一度起き上がったが、頭を石で挟まれているような頭痛がしてそのままベッドに倒れこんだ。

「ちょ、ちょっとなまえ大丈夫?!」

ベッドに座ってエミリアが顔を覗き込んできた。

「うん・・・ゴメン・・・ちょっと気分悪いから、先にご飯食べに行ってて」

「医務室に行ったほうがいいんじゃないの?」

「ううん、ホントにいいの・・・ほら遅れちゃうよ」

なまえは手を上げてエミリアの肩を押した。

エミリアは後ろ髪引かれるような顔をしていたが、そのまま部屋を出て行った。

なまえにとってはそのほうが嬉しかった。
今は声を出すだけでも頭が割れそうだ。

昨日は寝るのも4時過ぎで、夕食も食べていなかったのでいい加減体調がくずれたらしい。

もっとも原因はそれだけじゃなかったが・・・


いつもの何倍もの時間をかけてゆっくり起き上がった。
目を開けていると、朝日で目が焼けそうなほど痛いので、手探りでパジャマを脱いで制服に着替えた。

ネクタイを結ぶのが一番困難で、なまえは途中で何度も諦めてベッドに仰向けに倒れこんだ。

顔を洗うのが精一杯で髪の毛はただとかすだけにする。

ゆっくり鞄を持ち上げ、そばにある椅子やらベッドの手すりをつかみながら、フラフラと寝室を出た。

一生懸命階段を下りた、頭がフラフラして目がかすむ。

運の悪いことに、今日は授業が多くて鞄が異常に重かったので、なまえは数段下りるごとに下に下ろした。

談話室への入り口が見えてくる。

もうこの急な階段を下りなくて良いと思うと、少し気分がよくなったので、最後の3,4段は鞄を持ったまま一気に駆け下りた。


なんて馬鹿なことをしたんだろう。

階段を下り終えて談話室の入り口に一歩踏み出したが、急に何かがこみ上げてくる。

あまりの気分の悪さにそのまま床に崩れ落ちた。




遠くで足音が聞こえた気がした。




****************

シリウスはあわててローブを羽織った。
あまりに急いでいたので、ローブをかけていたハンガーが床に落ちたが、拾っている暇などない。

昨日は夜中に一度起きたので、その分寝坊してしまった。

目が覚めるとジェームズたちの姿はなく、あわてて起き上がったのだった。
急いで制服に着替え、ネクタイは結ぶ暇もなく首からさげて部屋から飛び出した。

他の寝室の生徒達はもうとっくに朝食を食べに行ったのだろう。
まわりの部屋からは誰の話し声も聞こえてこない。

シリウスは片手に鞄を持ち、もう一方の手は壁に当てながら階段を駆け下りた。

途中の踊り場から下を見下ろすと、談話室にも誰もいない様だ。

「ヤバいな・・・」

もう何回同じ事をつぶやいただろう。

階段の終わりから走り出そうとした時だった、目の前で何かが道をふさいでいる。

シリウスは前につんのめりそうになりながら急停止した。

「何だよ、あぶねぇな!」

よく見ると誰かが倒れていた。

女子生徒だ。

鞄に寄りかかる様にうずくまっていて、長い焦げ茶の髪の毛で顔が見えない。

でもどこかで見覚えのある感じがした・・・

「なまえ・・・?!なまえかよ!どうしたんだ?!」

細い肩に手をあててゆっくり起こしたが、返事はなく酷く顔色が悪かった。

「大丈夫か?気分が悪いのか?!」

かすかに頷いた気がする。

シリウスは自分の鞄を投げ捨てて、なまえを床に座らせた。

彼女のひざの下と背中に手をかけてそのまま抱き上げると、急いで談話室を飛び出した。


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