ShootingStar-01
心地よい風が顔に吹き付ける
エンジンが身体中に響いていた
足元を見下ろせば
小さな宝石の様な星が数えきれないほどながれている
辺りは震えるほどに真っ暗だったけれど
何も怖くはなかった
このまま夜の底に落ちていっても
きっと戻ってこれると思った
Shooting Star
終業のベルが鳴り薬草学の授業が終った。
2号温室で生徒達は各々教科書を鞄にしまったり、次の授業を確かめあっている。
なまえも授業で使った手袋を中央の箱に戻した後、自分の鞄を肩にかけようとしていた。
先生は手袋を外しながら生徒達を見渡して、なまえが顔を上げた瞬間ちょうど目が合った。
「ああ、いましたねミス・みょうじ。今日はあなたが片付け当番ですよ」
軽くうなずいて先ほど持ち上げた鞄をまた下ろす。
「え〜と、それから・・・」
先生はさらに温室を見渡した。
そして出口付近で固まっている数人の輪を見つけると、その中にずんずんと進んで行き、そのうちの一人の肩をポンと叩く。
「ミスター・ブラック、あなたも当番ですよ。彼女と一緒に双首草を片付けてください」
其方の方向を見ると、シリウスが面倒くさそうに頷いていた。
なまえは誰にもばれないように小さく深呼吸をする。
シリウス・ブラックと聞いて、心臓が大きな音を立てて鳴り始めたからだ。
「それではここにある双首草を1号温室まで運んできてください。私は先に行ってますから」
そう言い残して先生は温室から出て行った。
シリウスのほうを見るとジェームズ達にからかわれている。
「シリウス大変だね〜、今日は占い学も片付け当番だったのに」
ジェームズがシリウスの肩をポンとたたいてやれやれと首を振った。
「じゃあ頑張ってね、シリウス」
リーマスもにこやかにそう言って温室から出て行こうとする。
「待てよ、手伝わないのか?」
シリウスの言葉を軽い笑顔で流すと、リーマスは温室から出て行った。
リーマスに着いて行きながらジェームズはくるりと振り返ってなまえにかるくウインクをしてくる。
ピーターも一瞬チラッとこちらを見たが、2人の後を追って温室を足早に出て行った。
2号温室には、残されたシリウスの大きなため息だけが響いた。
彼らのやり取りをじっと見ていたなまえは、ハっと我に返る。
黙って双首草の箱を持ち上げると、気を取り直したのかシリウスがそばに駆け寄って来た。
「あ〜、これを1号温室まで運ぶんだったよな?」
持っていた鞄を肩にかけなおすと、シリウスがなまえの隣に立ってこっちを見た。
曇り空なので温室の中はいつもより薄暗いが、彼のまっすぐな灰色の瞳は鈍ることなくなまえをじっと見ている。
それだけで頭が真っ白になり、慌てて視線をそらした。
なまえの反応を見て、シリウスは眉を顰める。
「大丈夫か?気分悪いとか・・・?」
「あ・・・あのね。これは私がやるから先に次の授業行ってていいよ」
なまえはシリウスに視線を合わせないように俯き加減で答えた。
「は?いいって、俺も当番なんだし。一人で持つには重いだろ」
「い、いいって!大丈夫だから、先に行ってて」
シリウスはなまえが持ち上げた双首草の箱を支えるように持ったが、なまえはその手を振り払って歩き出した。
「なんだよ。俺も持つって」
シリウスが追いかけてきたのでなまえは足を速める。
「いいの!大丈夫だから」
外からふいてくる涼しい風が前髪を揺らす。
温室の出口は目の前だ。
「ホントに大丈夫なのか?」
シリウスは足を止める。
なまえは背を向けたまま頷いて足早に温室を出て行った。
ひとり、腑に落ちない顔をしているシリウスを残して・・・
****************
「なんなんだよアイツ!」
魔法薬の教室で頬杖をつきながら、シリウスはブツブツと文句を言っていた。
「せっかく人が手伝ってやろうとしてたのに、思いっきり振り払いやがって・・・」
そんなシリウスを見ながら、傍らでリーマスがクスクス笑っている。
ピーターは一生懸命教科書とにらめっこしていて、今日の授業で先生にどやされないように頭をフル回転していた。
ジェームズはシリウスの話を聴いて、あごに軽く手を当てながら何かを考えている。
「う〜ん、不可解な行動だよね〜・・・もしかしてシリウスさ、なまえ・みょうじに嫌われてるんじゃない?」
「ちょっとまてよ。俺はアイツに何もしてねぇし、話しかけたのだって今日が初めてで・・・」
リーマスのクスクス笑いが大きくなる。
「「何?」」
シリウスとジェームズが同時にリーマスを見て言った。
「フフ・・・いや、なんでもないよ」
「何だよ何かあるならちゃんと言えよ!」
シリウスがリーマスの腕をつかんで睨みつける。
その時、教室のドアが開いてなまえ・みょうじが中に入ってきた。
チラッとシリウスと目が合うと、また視線をそらして早足で席に着いた。
シリウスはリーマスのローブから手を離して、乱暴に椅子に座る。
「本当に何も身に覚えがねぇんだよ・・・」
その日の午後、夕食の前にジェームズ達4人の部屋にまたいつものメンバーがそろっていた。
今日はリリーも一緒だ。
「へぇ〜なまえがねー・・・」
リリーがジェームズの話を聞いて一緒に考え込む。
「俺、ホントに何も知らない・・・」
シリウスは今日はそればっかりだった。
まだ不機嫌そうな顔で頬杖をついている。
「あっそうか!」
リリーは何かを思い出したかのように目を輝かせ、窓際に座っていたリーマスに駆け寄った。
耳元に手を当てて何かを囁いて、リーマスはそれをうんうん頷きながら聴いている。
「やっぱり君もそう思うよね、それしか考えられない」
「リリー僕にも話してくれよ〜」
ジェームズが甘えた声でリリーに囁くが
「あら、もうすぐ夕食の時間ね。席がなくなっちゃうわ」
リリーは手をひらひらとジェームズに振って足取りも軽く部屋を出て行った。
ドアが閉まると、ジェームズもシリウスみたく不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。
「僕もおなか減った・・・」
隣でピーターがボソっと呟いたので、リーマスは読んでいた本をパタンと閉じて立ち上がった。
「それじゃあ僕らも行こうか」
ご機嫌斜めの二人もその後について歩き始めた。
****************
「え〜、うそ!信じらんない!」
エミリアが大きな声を出したので、なまえは人差し指を立てて「しーっ」とした。
同じ部屋のリズがチラリとこちらを見たので、なまえはなんとなく微笑み返してその場を誤魔化す。
「もう、あまり大きな声出さないで」
「ああ、ゴメンゴメン・・・でもなまえそれは絶対変に思われたよ」
なまえのベッドの上に2人で座って、今日の薬草学の授業の後のことをエミリアに話し終えたところだった。
同室の他の生徒達も、夕食までの時間を各々の方法で過ごしている。
「シリウスが手伝ってくれるなら、あたし絶対断わったりしないよ!」
「だって・・・」
正直なところ、自分もシリウスと一緒の片付け当番は凄くうれしかった。
しかし彼に見つめられると変に緊張してしまい、自分でもどう振舞えばいいのかわからなくなってしまう。
もう一度やり直せるのならもっと上手に振舞えるのに・・・
どうしたって無理な話だけど。
なまえの表情を見て心配になったのかエミリアは背中をポンとたたいてきた。
「ほらほら、大丈夫だって!気を取り直してごはんでも食べに行こうよ!」
エミリアは元気良くベッドから飛び降りると、なまえのローブを引っ張って微笑みかけた。
彼女に続いて自分も立ち上がる。
くよくよしていても仕方が無いし、夕食を食べて気を紛らわそう。
女子寮の階段を下りていくと、だんだん談話室にいる生徒達の話し声が聞こえてきた。
ちょっと早かったなと思っていたその時・・・
ドスン!
なまえは談話室の入り口のまん前で何か大きなものにぶつかった。
その衝撃で後ろに倒れてしりもちをつく。
「あいたた・・・」
乱れた髪を整えながら顔を上げると、目の前にはシリウスも同じようにしりもちをついていた。
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