No one else-02



「はぁ?!どういうことだよ」

シリウスの声は廊下まで響き、外を歩いていた生徒はドアの方を振り返るほどだ。

「つまり、これは性転換が出来る薬なんだよ。一時的なものだけどね。男が飲めば女になるし、女が飲めば男になる」

人差し指をピーンと立ててジェームズが自慢げに解説を入れた。

「つーかお前、何でそんなもの作ってんだよ・・・」

呆れた・・・というより軽蔑した顔でジェームズを見る。

「閲覧禁止の本に載っていたんだよ、おもしろそうだから作ってみた♪」

それとは正反対にジェームズはニカっと笑う。

シリウスはしかめっつらをして左手で前髪をかきあげた。
ジェームズはいつも突飛な事を口にするが、今回はいくらなんでも・・・
他人事なら笑えるが、自分自身の事だと思うととても笑えたもんじゃない。


「だいたい・・・作ったの初めてだろソレ?そんなもの飲めるかよ」

「あぁ、その点は大丈夫!いろんな動物で試してみたし、何より・・・」


そこまで言って、ジェームズはぷっと吹き出した。
ピーターも我慢が出来なくなったらしくきゃたきゃた笑い始める。

二人の目線の先にはまた仏頂面になっているリーマス・・・

「今朝リーマスが間違えて食べちゃったんだよ、この薬が入ったチョコを!」

ピーターの笑い声がより一層大きくなった。
シリウスは光の速さでリーマスの方に振り向く。

「本当なのか?!リーマス!」

「あぁ、残念ながら・・・テーブルの上に置いてあったから食べたんだよ。まさかそんな薬が入っているなんて思わないじゃないか」

3人が座っている方向と逆の方に顔をそむけてリーマスがブツブツ言っている。

「いやいやゴメン。昨日夜中まで作っていたからさ、どうしても眠くて・・・広げたまま片付けないで寝ちゃったんだよ」

荒れ放題の頭をさらにくしゃくしゃにしながらジェームズが申し訳なさそうな顔をした。
シリウスはピーターと一緒にさっきからずっと笑いころげている。

「リーマス、コレに懲りて甘いものは控えろよ?」

笑いすぎて息切れしながらシリウスはリーマスの肩にポンと手を置いた。
手の置かれた肩をリーマスは軽くすくめる。

「そうだね、君に口説かれでもしたら大変だし」

顔を上げずにボソっとつぶやいた。

「アハハ、女の子のリーマスはそれはそれは可愛かったんだよ、ありえるかもね!」

「ジェームズ、全然嬉しくないよ・・・実際ホントに危なかったんだから・・・」

「誰かにナンパでもされたか?」

シリウスが少し落ち着いてきたらしくソファの背に持たれてはぁはぁ言いながら言った。

「あぁ・・・あの時は助けてくれてありがとう、シリウス」

リーマスは何かを思い出したかのようにフっと笑う。


「「「は?」」」


他の3人はリーマスの言っていることが解らず一斉に口をあけた。


「僕がスリザリン生にからまれているところを、シリウスが助けてくれたんだよ」

その言葉を聞いたジェームズとピーターが息もぴったりにシリウスの方にビュンと首を動かす。
シリウスはさっきの大笑いが嘘のように腕を組んで眉間にシワを寄せていた。

「・・・あ、もしかして朝大広間に向かう途中の・・・!アレ、お前だったのか?!」

「抹消したい事実なんだけどね」

リーマスは背後から冷たい風を吹雪かせながらシリウスに微笑む。


そういえばあの時の女の子はちょうどリーマスそっくりの栗色の髪で・・・
でも髪の長さはセミロングだったし、スカートもはいていた。
声も普通に女の子だった・・・

テーブルの上に置かれて青い影を作っているフラスコの中に入った液体により一層恐怖心が湧いた。

「今朝はあんなことになったから大広間には行かずに空き教室で朝食を食べていたんだ。トイレに行こうと思ったらタイミング悪く奴等に見つかって・・・そういえば君、いつもあんな事されてる女の子をみつけるたびに助けてるの?それはそれはお偉い事で・・・」

リーマスはクスクス笑っている。

「まさか、今朝だけだ!」

シリウスがバシっと答えたが・・・

「シリウス、その言動は逆に自分の首を絞めているよ!」

腹を抱えて笑っているジェームズにビシっとつっこまれた。
ピーターはもう息をしていないんじゃないかと思うほどずっと笑っている。

「リーマスが相当可愛かったのは僕も認めるけどね、たしかにシリウスのお眼鏡にかないそうだったよ」

ジェームズは気がついていないがシリウスが座っている場所からは見えないリーマスの表情を見て、さっきまで笑い続けていたピーターが急に笑いをやめた。

「違う!なまえの友達だと思ったから助けただけだ、誤解するなよ」

「へぇ〜目から何か出そうなほどの勢いでせまってきていた様な気がするんだけど・・・」

こちらを振り向かずに言うリーマスが怖い。

「まぁ助けてもらった事に変わりはないし、元に戻ったからもういいけどね」

リーマスの機嫌も徐々になおり、多少和やかな空気が流れかけていたのだが。


「その場面をなまえが観てたらどう思うだろうね、ハハ」


ピーターの一言で他の3人が硬直した。


「あ・・・れ?」

ピーターは3人の様子に驚いてオロオロしはじめる。

「まさか・・・ね」

ソファの肘で頬杖をついたジェームズが窓の外に視線をそらしながら口を動かした。

「僕はその時・・・ちょっと周りを見る余裕は無かったな」

リーマスは苦笑いでシリウスを見る。

「あいつは、それだけで怒るほど・・・心の狭い奴じゃない、と思う・・・」

シリウスの言葉は自分に言い聞かせている様だ。

もしなまえが寝室から出てこない理由がその件だとして、正直に「魔法で女になっていたリーマスを口説きかけていたんだ」と言って信じてもらえるだろうか・・・
いや・・・気をなだめる為の嘘か、からかっているだけだと思うに違いない。

4人はそれぞれの頭の中で同じ事を考えていた。

「シリウスがなまえに横っ面を叩かれる日も近いかもねぇ・・・」

ジェームズの言葉にシリウスがドキっとした。

「なまえなら横っ面を叩くまえに別れを切り出すんじゃない?」

人差し指を顎に当てて、その場面を想像している様にリーマスも呟く。


やがてジェームズとリーマスは空中でバチっと視線を合わせた。
二人とも思考の末同じ結論に至ったようだ。


「「シリウス、君はもうこの薬を飲むしかないね!」」


同じく二人とまったく同じ結論に至っていたシリウスはギクっとしてソファの背に貼り付いた。

「絶っ対に断る!!」

「口で言ってもなまえに信じてもらえる保証は無いんだ、自分で飲んで証明すればいいじゃないか」

「そうだよ、僕はもう飲みたくないから。君が自分で飲んで証明してね」

有無を言わさない調子でジェームズ、リーマスがマシンガンのように口を動かす。

「なまえが寝室から出てこない理由はそれと決まったわけじゃないだろ?!」

「もし違うとしてもこの薬を飲めば女子寮に入れるし、一石二鳥じゃないか」

ジェームズは目をキラキラさせて、それこそが唯一正しい道と言わんばかりの表情だ。

「君はなまえが心配じゃないの?」

リーマスは絶対零度の微笑みをうかべている。

「女子寮に入るならポリジュース薬でもいいだろ!」

シリウスはソファの背に貼り付いたまま、さらに一番端まで身を引いた。


「あ・・・それは・・・」

別のところから声が聞こえたかと思うと、正面に座っていたピーターが俯きながら口を開いた。

「僕が昨日、全部こぼしちゃったんだ・・・」

シリウスの鋭い目つきにピーターもひぃっと身を引く。

「残念だったね、シリウス!ポリジュース薬は作るのに一ヶ月弱はかかるよ。それに・・・ポリジュース薬の場合は女の子の髪の毛が必要になるだろう?だとしたらなまえの友達の誰かか、リリーにお願いしなきゃいけなくなる」

フフっと笑って目を瞑り、自分の顎に手を添えるジェームズ。


「君がリリーの体で何をするか知れたもんじゃないからね!」

目をカッと開いて、ギラリとシリウスを見据えた。

「お前と一緒にするな!」

シリウスがバンとテーブルを拳で叩いたので、テーブルの上に置かれていた瓶がカタカタ鳴った。
それにそんな回りくどい事を頼むくらいなら、なまえを部屋から連れ出してもらう様にお願いする方がずっとマシだ。

図書室にいるエミリアに頼みに行こうと思い、シリウスはソファから立ち上がろうと重心を前にずらした。

ジェームズはやれやれと首を振りながらローブの胸ポケットに右手を突っ込む。


「リーマス、ピーター!シリウスを抑えて!!」

「ちょ・・・待っ・・・・・!ジェームズ!!」

リーマスに左腕と腰を抑えられ、ピーターに両肩を抑えられた。


二人の体で視界が閉ざされた、次の瞬間。



ジェームズの声が寝室に響き渡り、シリウスはソファの上で金縛り術にかけられた。


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