「べんちゃん、今日塾はないのか?」

「うん、都合よく休み。」



台風が近付いてるのに
正直行きたくないからっと

私と二人、下駄箱でもう履き終わって、私を前に肩を貸しながらそう漏らす。

そうして、もう外へ出口



「(あ、そうだった…)」



ついいつものくせで
何となく外に出ようとしてから
自分が傘を忘れたんだ、と思い出す


校舎から滴る滴を見上げ、
どうしよう、と内心漏らしていると
べんちゃんの声で我に返った



「一緒に入る?」

「え…っ!?」



声のした方に顔を向ければ
べんちゃんは傘を差して、私に柔らかい笑みを浮かべた



「だって零ちゃん、傘持ってないじゃないか」

「あ、ああ…!そ、そうだな…」



一瞬の、"何故判ったのだ!"を
かき消すようにそう付け足したべんちゃんに、思わず肯定してしまった

そんな慌てた様子の私がおかしいのか、未だべんちゃんは笑みを浮かべたまま。

正直、目を合わせるのが恥ずかしい



「塾は休みだから。家まで送ってくよ」

「め、面倒だとか思わないのか…?」

「え、そんなことないけど」



目を反らしながら、しの嫌味を含めて呟けば、彼はきょとんと首を傾げて私を見直す



「…、」



なんで、彼はこんなに優しいのだろう。

なんで、彼はこんなに真っ直ぐなのだろう。


それをぶつけられている
こっちにとっては、眩しいくらいに。



「あ、後で邪魔だと思っても退かないからな!」

「うん」

「べんちゃんの方が濡れても、知らないぞ!?」

「うん」



にこり、そう笑って彼は頷く
もう私には言い訳が見つからない

いや、どんなに言い訳を付けても
彼は折れないだろう、



私はそんな眩しい彼の隣を行く
ほんのり、石鹸の香りが私の鼻を掠める

どうせなら、今ある彼のこの距離を堪能しておこう。
彼の香りと温かさを近くで感じておこう



「ありがとう…」






←戻る