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‖月

「わたくしは
あなたと一緒に
この頭上に輝く星空を見たい…」



そんな言葉は
嘘だと思っていた
人から変わり者と罵られ
人と関わるのも嫌で堪らないわたしは
その女性の言葉も
きっと偽りなのだと
そう確信していた



…なのに
彼女はいつも王宮から抜け出しては
わたしの研究所に足を運ぶ


最初は相手にさえしていなかったのに
彼女のその温かい心に
わたしは何時からか包まれていた
…幸せだと
そう
心の何処かで
満たされていた



だが
ある日を境に彼女は来なくなった…


そう
全て偽りだったのだ…


裏切られた憎しみより
彼女がいない悲しみに包まれていた…


涙が否応無しに溢れて来る…
所詮あの娘は王宮の者であって
こんな男とは縁が無いもの
…これで良かったのだ
これで…


だがその夜
彼女はわたしの研究所に現れた



「王宮があなたを異端者と見做しました
もうじき此処に衛兵が来ます
…わたくしは
あなたを失いたくありません」



一瞬
幻かと思った…

凛とした表情
透き通る声
そして奥深く輝くその蒼の瞳に…
一瞬
瞬きするのを忘れた


「そうか、有難う
わたしは今から発つよ
君と話せて楽しかった…」
さようなら…
そう言おうと口を開きかけた時


「わたくしも一緒に行きます
一緒にこの頭上に輝く星空を見,
一緒に竜を見ようと約束したのだから」



言葉が出なかった…



何故彼女が来なくなったのか
何故今わたしの目の前で微笑むのか…



「…わたしが怖くないのかい?
異端者と呼ばれ少しでも君を疑ったわたしを」



「あなたが
わたくしの自由です」



月の光が
彼女の髪をより一層輝かせる



その美しい姿に惹かれるように
彼女を抱きしめた



…強く強く



何処かで気付いていたのだ
彼女はわたしのたった一人のユーナだと…




†ギディオン・ディー†




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