小説 | ナノ




‖海

「遠子…」



そこに居るのは
幻だろうか



「遠子…」



あの日わたしは
家族や
故郷を滅ぼした
その仇を取る為に
手首に連ねた勾玉をはめ
先端を光らせる短剣を握り締め
あの人の元に行った




…でも
出来なかった
殺す事等
わたしには出来なかった


だからわたしは
遠子である存在を消し
宮である事を望んだ
全てを忘れるために
わたしを捨てるために


なのに
何故この人は
わたしの目の前に居るのだろうか


ざざん…
ざざざ…


波の音が
全ての音を飲み込む
海の色は
深い蒼色


愛しいあなたは
わたしを真直ぐに
見つめる


わたしの瞳からは
一筋の涙が
零れ落ちる…

軋むわたしの心
揺れるわたしの黒髪…

遠い昔に約束した
もう一度出逢う事を…


潮が満ちる
風がさらさらと音を立てる


あなたがわたしの頬に触れる
わたしの涙は溢れて止まらない


彼の目や鼻筋は
あの頃と変わらない
幼さが残る…


目の前に居るあなた
見つめるわたし


「遠子…
ようやくまた逢えたね」


懐かしいその声

愛しいのは誰
逢いたがっていた人は誰
今目の前に居る人は…
その優しい眼差しは
もう…


眩し過ぎて


涙が止まらない…




†遠子と小倶那†




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