だから、おれは笑う あとべは、おれのヒーローだった。とにかく。絶対的に。 財閥のおんぞーしってヤツで、登場はちょっとびっくりもしたけど、意外とちゃんとしてて。 生徒会長も務めてて、学園でも中心にいるあとべ。 けれど練習の合間だって、おれを見つけてくれる。「ジロー」って呼んでくれる瞬間が好きだった。 優しく頭を撫でて、「ほら、戻るぞ」って笑ってくれるんだ。 テニスだって滅茶苦茶巧いんだけどさ、陰ですっげー努力してるの、おれ知ってる。 監督からも部員からも信頼されてて。マジマジすっげーヤツなんだよ。 あとべってね、誰よりも楽しそうにテニスをするんだ。 だからおれも、テニスが楽しいんだ。 * 今、一人芝生で寝転んでいる。 あとべは、来ない。 あー、天気がいいなー。昼寝日和だ。 でも、こんな日に限って全然眠気は訪れない。ちくしょう。 兎に角目を閉じてみた。 サク、と芝を踏む音が聞こえて目を開くと、あとべがしゃがみ込んでおれを覗き込んでいた。 優しく頭を撫でてくれる。けど、あの言葉がない。 笑っているけど、本当は笑ってない。 おれはムクリと起き上がって、あとべに向かい合った。 ・・・おれにはわかる。あとべは、不安なんだ。 自分に欠けている何かがわからなくて。 だから、おれは笑う。 「大丈夫だよ。あとべ。どんなあとべでもあとべはおれのヒーローだC!」 ・・・おれ、悲しくて死んじゃうかも。 じくじくと迫る痛み。それは体中を蝕んで、いつしか理性も飛んでいっちゃうかもしれない。 そうなったら。おれは辺りをのた打ち回って、泣き叫んでやりたい。 だけど、おれだってあとべのことを守ってやりたいんだ。唯一無二の存在だから。 だから、その時が訪れるまでは。 只々この痛みに耐えて、あとべの前で笑っていよう。 ×
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