愛しい唇で

ちゃんと最初に言ったよね。泣いても止めてあげられないって。
「夏目くん……っ」
 組み敷いたボクの下で涙目で息も絶え絶えに僕の名前を呼ぶ彼女の唇を塞ぐ。このやりとりをもう何度行っただろう。それでもいいって乗ってきたのは子猫ちゃんだったはずなのにいつの間にかこんなにぐでぐでになってしまった。
「……おかしいナ。ボクはそんなに難しいことを強要しているわけじゃないんだけどネ?」
 ボクが楽しそうに言うと彼女はバツが悪いのか目をそらしてしまった。それがなんだか気に入らなくて顔を無理やりこちらへ向かせると、今度は目を閉じてしまった。これは強情と言うべきだろうか。  
「ただ呼び捨てで呼んで欲しいって言ってるだけなのニ……」
「やっぱり恥ずかしいの……!本当に呼ばなきゃダメ?」
「うん、ダメ」
 即答すると子猫ちゃんは顔どころか耳まで真っ赤にしてしまった。あー可愛い。本当に可愛い。
 こうも可愛いとついつい意地悪をしたくなってしまうのは男として当然のことだよね?
「悪い子にはお仕置きが必要だよネ?」
「……っ」
「次はどこにキスをしよウ?そうだネ、見えるところに痕でもつけてしまおうカ」
 見開いてボクを見つめる目の縁には涙が溜まってきていた。……少しやり過ぎただろうか?
 その時、不意に子猫ちゃんが聞き取れないような小さな声で何かを言った。   
「何?」
「……な、つめ」
「もう一回呼んデ」
 ただの思いつきで始めたことだったけど、意外と悪くない。ちょっとドキドキするのは非日常感からきているだけじゃなく、他ならぬ子猫ちゃんが呼んでくれているからだ。
「さァ、早く」
「も、もう無理!」
 じゃあ、またキス地獄に逆戻りだネ、と拒む彼女の腕を掴み、再びその唇を塞ぐのだった。





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