お預け

 珍しく平日に休みが取れた。普段なら平日の休みなんてと思うところだけど今日は彼女も学校が休みで家にいる。これはチャンスかもしれない。
 だって、他の兄弟たちはみんないないのだから。

「つーわけで、ぎゅー★」
「つ、椿さん!?」

 誰もいないことをいいことにリビングで一人ゲームをしていた彼女を後ろから抱き締める。

「これから俺といいこと、しよ?」

 そして我ながらいい声で囁く。それが心に響いたのか、彼女は腕の中でぷるぷると震えだした。たまには恋人としていい感じの雰囲気も大事だよね。
 なんていったって休みだし!と心の中でガッツポーズをしていると絵麻が小さな声で何かを言った。

「んー?どったの?」
「せっかくいいところまで行ったのに!!椿さんのバカぁ!」

 そう言われてテレビ画面の方を見ると大きくGAME OVERの文字が書かれていた。これは完璧にタイミングをミスったと顔が歪む。 

「え、あ、ちょ、泣くなってばー………っ!?」

 大粒の涙を目のふちに溜めた彼女はそれをこぼしながらこちらに振り返り、なんの躊躇いもなく男にとって大事なところに拳を降り下ろした。どしん、ともずきんともする鈍い痛みに声を上げることも動くこともできず俺はその場にうずくまった。
 これはやばい、腹の奥が痛い。

「…………椿さん?」

 呼ばれてるけど痛すぎて声がでなかった。
 この攻撃はいくら弟たちに容赦のない俺でもやばいのが分かってるからやらないのに、そこを躊躇いもなく彼女はやってきた。ある意味勇者。いや、魔王。

「大丈夫ですか……?」
「………………………………うん」

 そんな俺を見て彼女は憐れんだ目を向けている。お願いだからその眼はやめてくれないかな、男はみんなやられたらこうなるから。

「一時間だけ時間を下さい、話はそれからです。その間、私にちょっかいを出したらもう2度と椿さんとそういうことはしませんからね」

 一時間もお預け……?二度としない……?そんなの絶対に無理。俺がどんな思いをしてキミと付き合ってるか分かってるのって体をゆすりたいところだけど今まさにちょっかいをかけるなと言われた手前何もできない。

「もしもちょっかいをかけたら……?」
「……棗さんとそ、そういうこと、します」
「梓でもなく棗!?」

 言いにくそうに言ってるけど、これはマジで大人しくしていないといけないパターンじゃね!?と仕方なく心を入れ替えソファに寝転びながら絵麻がゲームをしている姿を眺める。こんなはずじゃなかったのに。
 それから三十分は経っただろうか、話しかけることもちょっかいのうちに数えられたらたまったもんじゃないと大人しくしていたがそろそろ限界に近い。色んな意味で。
 久しぶりの休日で最愛の妹にして恋人が目の間にいるこのシチュエーションで大人しくしている方が無理だ。

「ふぅ……一段落つきましたよ、椿さん」
「おつかれーっ」
「何をしようとしているんですか?あと20分も残っていますよ?」

 ゲームに区切りをつけこちらを振り返った彼女に待ってましたと抱きつきに行こうとしたら、笑顔のまま不穏なことを呟かれた。
 へ?と間抜けな声が漏れるも絵麻は表情を一切崩さない。

「言ったじゃないですか、一時間我慢してもらうって。まさか椿さん、我慢出来ないんですか?」

 ニコニコ笑いながらそういうことを言う彼女の姿に梓の面影を見た気がした。なんでだろう、血は繋がってなくても一緒に暮らしていれば兄弟は似てくるものなのかもしれないと頭の片隅で思っていたら、いつの間にか彼女が俺のそばまで近寄ってきていて嫌な予感がする。

「……ゲームする私の後ろ姿眺めて欲情したんですか?」
「俺、言葉攻めされる趣味はねーんだけど…………、んんっ」

 俺が手を出せないのをいいことに彼女が俺の太ももにすすーっと指を滑らせる。その指先には期待して待ち構えている愚息がいるのもばっちり見られた。
 心なしか楽しそうな彼女にこのまましてやられるのもなんだか癪だと思うのに、俺の体は正直でズボンの上からつんつんと突かれたり、やわやわとくすぐられたりするとつい腰がピクリと反応してしまう。

「絵麻ーあと10分だよ、俺の部屋に行こ?」
「ここでもいいんですよ?」

 笑いながら言うんだから悪気はないんだろうな。こんなところでおっぱじめて兄弟の誰かが帰ってきた日には家から追い出される未来しか見えない。主に俺が。
 それに可愛い声して喘ぐ君の姿とか梓にも見せたくないのにこれ以上意地悪言うのはやめてほしい。

「………時間が来たら覚悟しておいてね、絵麻。足腰立たなくさせてやるから」
「お手柔らかに」

 笑顔のまま挑戦的な瞳を向けてくる君に勝てる気がしない。俺は心の中で小さく白旗を上げた。



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