ただいまとおかえり

 ぼくが家を出てこのマンションに住むようになって早数年。ずいぶんと庶民風な生活にも慣れてきた。
 あんずちゃんの通勤に不便がないようにと選んだこの家はセキュリティは万全だけれど、そこまでの広さはなくこじんまりとしている。愛しい人と常に側にいられることを思えばこの狭さも悪いものとは思えず、むしろ幸福なものだとも思えた。
 ぼくはエレベーターを降りて、部屋の前まで進みながらカバンの中のキーケースを探す。少し前まで自分でカギを開けるなんて滅多にしなかったのに、好きな人と一緒に暮らすためにはそんな些細な面倒事もなんてこともなく感じられるから不思議だね。
 そして、この薄い玄関扉をくぐると聞こえてくるまな板を叩く小気味のいい音と食欲をそそる夕食の匂い。きっと今日は和食だね!あんずちゃんの料理は美味しいから楽しみだね!

「ただいま、あんずちゃん!」
「おかえりなさい、日和さん」

 意気揚々とリビングへの扉を開くとキッチンからひょこっとウサギのように顔を出す彼女。その様子が実に愛らしく、いじらしくぼくの口元がかすかに緩む。
 遠くから眺めていたあの頃は終わり。これからは毎日ぼくのためにお味噌汁を作るといいね!あ、でもどうせならやっぱり和食より洋食がいいね!

 



[mokuji]
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