いただきます
手を合わせ『いただきます』と声に出す。それを満足そうに見つめて、同じようにする彼女がいる。数年前までこんなの、考えられなかった。
ささやかな幸せを彩る食卓には見慣れない食べ物が並んでいた。どうしてその組み合わせに!?というツッコミを彼女は待っているのだろうか。お稲荷さんの皮の中に、蕎麦だなんてそれぞれが美味しいのは知っているけれどなんで組み合わせてしまったんだろう。
ボクが見たことのない組み合わせに面食らっていると彼女はクスクスと笑い出した。
「今、変な組み合わせって思ったでしょ?とりあえず、食べてみてよ。文句はそれから受け付けます」
「つゆは……?まさカ、そのまま?」
「そう、そのまま。あ、薬味はお好みで乗せてね」
ボクは言われた通りに、その物体を口に運ぶ。奏汰兄さんが作るよく分からないものに比べたら何か分かっているものを口に入れるのは恐怖心がない。いや、あんずちゃんが食べられないようなものを作るわけがないというのは分かっているのだけれど、どうしても疑心が捨てきれない。
ぱくり、とそれにかぶりつくとお稲荷さんの甘じょっぱいさが口に広がったあと蕎麦の風味が口内を駆け巡った。
「美味しイ……」
美味しいものと美味しいものをかけ合わせているのだからまずいわけがないんだけれども、意外と言う他なかった。そして、その様子を見て彼女は再び満足そうに微笑んだ。
「これで夏目くんの食べれるもののレパートリーが一つ増えたね」
「む……食わず嫌いをしているつもりはないケド?」
「でも、夏目くん放っておいたら食べたい!ってものがないからご飯とお味噌汁、パンとスープとたまにサラダで食事を完結させようとするでしょ。なんならご飯抜くよね?」
確かにと返事をしそうになって慌てて取り繕う。食に対してそこまでの執着はないのは事実だが、出されたものはキチンと食べているのになんて言い草だろう。それこそ昔、食べれる物なら何でも良いなんて言って師匠の不興を買ったことはあったけど、その失敗から学んであんずちゃんにはそんなこと言ったこともないのに。
「私はね、夏目くんにまた食べたいなって思ってもらえるものを作りたいの」
思いの外、真剣な目で見つめられて自分も少し考えを改めるべきだと反省した。リクエストしたら作ってくれる?とおずおず問いかけるとあんずちゃんはもちろん!と笑顔の花を満開にさせた。
[mokuji]